<社説>県系人交流拠点設置へ 「沖縄の宝」継承・発展を


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<社説>県系人交流拠点設置へ 「沖縄の宝」継承・発展を
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 玉城デニー知事は、世界に約42万人いる県系人(ウチナーンチュ)が交流するための拠点「世界ウチナーンチュセンター(仮称)」の設置を発表した。中城湾港マリンタウンMICE地区に2029年完成予定だ。かねてから要望のあったセンター設置についての知事の決断を評価したい。

 センター設置支援委員会は世代交代が進む中、「いつまでもウチナーンチュのネットワークが残ると思ったら大間違いだ」などと危機感を示し、県を後押しした。
 世界のウチナーンチュは沖縄の宝である。厳しい自然環境や労働に耐え、差別や偏見を乗り越え、故郷に送金するなど沖縄を支えた。ホームグラウンドである沖縄がその歴史に感謝し、絆を結ぶ中心的役割を自覚して、世界に広がる沖縄人のアイデンティティーや文化、沖縄への思いを継承・発展させねばならない。県民一体で活動を盛り上げたい。
 沖縄の海外移住は1899年のハワイ移民から始まる。重労働や差別など過酷な生活に耐えつつ懸命に働き、稼いだ金を沖縄の家族に送った。戦前は海外からの送金総額が一時は県歳入の6割以上に上り窮乏する沖縄社会を助けた。
 戦後はハワイの県系人が豚550頭を沖縄に送ったほか、琉球大学の創立支援など沖縄の救済・復興に尽力した。海外県系人は故郷の苦しみを分かち合い、手を差し伸べた。
 しかし近年は3、4、5世へと世代が移り変わり、沖縄アイデンティティーの希薄化が指摘されている。新型コロナで県人会の活動も停滞し、沖縄コミュニティーの再建や継続が課題となっている。今度は沖縄から手を差し伸べ、恩返しする番である。
 センターは県民と海外県系人の交流拠点であり、移民の資料や物品の収集・展示、移民を学ぶ学習・普及、相談受け付け、移民情報提供などを担う。これまで7回にわたり世界のウチナーンチュ大会が催されてきたが、交流を一過性に終わらせない取り組みだ。
 大切なのは移民の歴史や沖縄文化の若い世代への継承であり、ネットワークを一層強化することだ。ぜひ県系人のニーズを的確に把握し、有効な事業を展開してほしい。
 2022年の第7回世界のウチナーンチュ大会で強調されたのは「命どぅ宝」と平和創造への誓いだった。大会メッセージで、ウチナーンチュは「どこにいても『平和の緩衝』の役割を担うことができる」と宣誓された。
 西銘順治知事時代、初めて基地問題を米国に要請する際、困難視されていた国防長官への直訴がハワイ県人会の尽力で実現した経緯もある。県系人のネットワークは平和創造にも貢献できる。県の地域外交の理念にも合致する。
 「ゆいまーる」「いちゃりばちょーでー」「ちむぐくる」「命どぅ宝」を沖縄アイデンティティーを培う精神として共有・継承し、県系人ネットワークを発展させてほしい。