<社説>共同親権導入へ 懸念は払拭されていない


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<社説>共同親権導入へ 懸念は払拭されていない
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 法制審議会の家族法制部会は1月30日、離婚後の子どもの養育に関する制度について、父母どちらかの単独親権のみと定めた現行民法を改正し、共同親権を選べるようにする要綱案をまとめた。多発する養育費の不払いに対応するため、必ず支払うべき「法定養育費」の創設も盛り込んだ。

 法務省は今国会に民法などの改正案を提出する方針だ。成立すれば、離婚後の子育ての在り方は大きな転換点を迎えるが、共同親権導入に伴う懸念は払拭されていない。
 要綱案では、離婚の際に父母の協議で単独親権か共同親権を選び、折り合えなければ家庭裁判所が判断する。共同親権となった場合は、進学や病気の長期治療といった重要事項は、父母が話し合って決めるとしている。
 共同親権は、離婚後も父母とも養育に関われ、子どもの利益にかなうなどとして支持する意見がある。激しい親権争いから起きる「子の連れ去り」を防げるとの声もある。
 虐待やドメスティックバイオレンス(DV)の恐れがある場合は、家裁が単独親権と決定できるとした。
 しかし、DV被害者側からは「力関係に差があり対等に話し合えない」「子どもの安全を守れない」など、共同親権に反対する意見が根強い。
 法制部会の採決では、参加した委員21人のうち3人が反対した。共同親権によって虐待・DV被害が継続するとの懸念が払拭できていないのだろう。
 家庭内の「密室」で起きるDVは顕在化しにくい。表面化しない暴力は証明が難しく、個別のケースで家裁が共同親権の可否を判断できるのか課題も残る。DV加害者との接点が残れば、子どもへの悪影響は続く。
 部会では虐待やDVを防ぐため、父母の別居や離婚に当たり行政や福祉など「各分野の支援の充実が必要」との付帯決議をまとめた。共同親権を導入するなら、DV防止法といった被害者保護の法整備や支援態勢を合わせて拡充することが強く求められる。
 また、父母の合意が必要な重要事項で対立があればその都度、誰が決めるか家裁が判断することになるが、合意に至らなければ紛争が多発する恐れもある。期限に間に合わないなど「急迫の事情」があれば単独で決定できるが、「急迫の事情」の内容についても意見が分かれる可能性もある。それぞれのケースで、父母の協議がスムーズにいくとは限らず、対立が長引くこともあり得る。
 家裁の役割が拡大することが予想されるが、迅速かつ適切に家裁が判断できる態勢も整備する必要がある。
 家族の在り方や価値観も多様化している。さまざまな家族の形に対応し、子どもの利益を最優先するためにも、これら懸念の声に耳を傾け、法改正に当たってはより丁寧な議論を深めるべきだ。