<社説>中部水源取水再開へ PFAS抜本対策を急げ


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<社説>中部水源取水再開へ PFAS抜本対策を急げ
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 県民の節水努力が求められる。同時に水源の浄化に向けた抜本的な対策を急がなければならない。政府全体の取り組みが必要だ。

 少雨が続き、沖縄本島内の11ダムの貯水率が低下していることから、県企業局は有機フッ素化合物(PFAS)対策で2022年から停止している中部水源から取水を再開する方針を決めた。貯水率が50%を下回る段階で、PFAS濃度の比較的低い嘉手納井戸群、天願川、長田川の3水源からの取水を始める。
 現在、貯水率は3日で1%程度低下しており、取水再開は9日以降になる見通しだ。過去10年間で最も貯水率が低下した44.3%を下回る段階になれば3水源よりPFAS濃度が高い比謝川からの取水を検討する。
 沖縄本島で最後に給水制限(断水)が実施されたのは1994年である。それ以前は少雨による水不足がたびたび起こったこともあり、日常生活の中で節水が求められた。当時の体験を思い起こし、節水を習慣付けるよう県民にお願いしたい。県や市町村も協力を呼びかけてほしい。
 もちろん、取水再開後の水の安全確保は徹底されなければならない。
 県企業局が発表している中部水源のPFAS検出状況によると、昨年4月から12月までの平均で嘉手納井戸群、天願川、長田川は水源時点で国の暫定指針値を下回っている。その水は北部のダム水源の水との合流で希釈され、さらに北谷浄水場で粒状活性炭による処理が行われる。
 浄化作業にかかる経費が沖縄の水道事業にのしかかっていることを忘れてはならない。防衛省などの一部負担分を除き、企業局は2016年度から22年度までにPFAS対策のため約12億円を費やしている。県はPFAS対策費の財政支援を国に求めているが、現時点で国は消極的だ。
 中部水源のPFAS混入の汚染源として米軍基地の存在が疑われている以上、財政的な支援を含め政府は積極的に対応すべきではないか。
 伊藤信太郎環境相は県の要請について「緊密に関係省庁と連携し、政府全体として対応していく必要がある」と述べている。東京など沖縄以外の基地所在地でPFASの問題が起きていることを踏まえても、伊藤環境相が言う通り政府全体で対応すべきだ。
 そして何よりも必要なのが汚染の元凶を断つことである。米軍基地内の立ち入り調査による汚染源の把握と除去がPFASの抜本的対策である。日米地位協定の障壁を取り払うためにも、防衛、外務両省を含む政府全体の対応が不可欠である。
 少雨傾向による中部水源の取水再開は米軍基地を強いられることによって生じるさまざまな矛盾の一つである。沖縄の水道事業の問題を超え、日本の安全保障政策に端を発する問題であることを政府は認識すべきである。