<社説>政治倫理審査会 実態解明にはほど遠い


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<社説>政治倫理審査会 実態解明にはほど遠い
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 政治の場で「説明責任」という言葉がこれほど空虚に響いたことがあるだろうか。疑惑は残ったままであり、国民は納得しない。証人喚問で事実を明らかにするしかない。

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた衆院政治倫理審査会(政倫審)が2月29日、3月1日に開かれた。出席した岸田文雄首相や安倍、二階の両派閥の事務総長経験者らの説明は衆院予算委員会や記者会見における説明の域を出なかった。事実解明にはほど遠い。
 出席者は「反省している」「説明責任を果たす」と釈明しながら、事実関係について「存じ上げない」「経理・会計業務には関与していない」「パーティー収入については認識していない」などのあいまいな説明に終始した。
 政治に対する国民の不信が極まる中で、疑惑を向けられた政治家の常とう句である「記憶にない」「秘書がやった」などという言い訳は到底通用しない。国民が知りたいのは、パーティーによる裏金づくりが始まった経緯は何か、なぜ違法行為が放置されたのか、裏金を何に使ったのか、脱税が行われているのでは、などである。それらの疑問に明確に答えるべきだ。
 29日の岸田首相の政倫審出席は安倍派幹部の出席を促した効果はあろう。しかし、これだけでは国民は許さない。疑惑発覚直後から岸田首相がリーダーシップを発揮していれば、史上初の現職首相出席という奇策を講ずることなく、全面公開による政倫審開催にこぎ着けることができた。
 実態解明につながるような新たな説明も岸田首相からはなかった。2022年の就任以降、7回のパーティーを開き、多額の収入を得ていたことを批判される始末である。岸田首相は在任中、パーティーを開かない考えを明らかにしたが、安易な資金集めに国民はあぜんとしたはずだ。
 1日の政倫審には事件の焦点である安倍派で事務総長を経験した西村康稔前経済産業相、松野博一前官房長官らが出席した。パーティー券による資金還流について西村氏は「歴代派閥会長と事務局長の慣行」と説明した。松野氏も20年以上の慣行だった可能性に触れた。
 20年以上の慣行であるならば、安倍派の前身である森派の会長であった森喜朗元首相から事情を聴く必要がある。森氏も応じるべきだ。
 資金還流を政治資金収支報告書に記載せず、「私的流用はない」と言いながら使途を明かさない議員に対し、国民は厳しい目を向けている。ネット上では「#確定申告ボイコット」という投稿があふれている。国民は厳密に納税を求められるのに国会議員は脱税が許されるのかという怒りが渦巻いている。事件に関与した議員は直視すべきだ。
 2日間の政倫審で国民の政治不信は一層深まった。証人喚問による事実解明を避けてはならない。