全国各地の在日米軍基地に人体に有害なポリ塩化ビフェニール(PCB)を含む機器が残っている問題で、米軍が流出などの危険性を認識していながら問題を先送りにしている。本来なら米本国で処理すべきだ。日米両政府はPCB処理に向け協議を加速させなければならない。
米軍はPCBを2003、07、14年の計3回、米本国に持ち帰っている。本国に輸送する際、米環境保護庁(EPA)に請願を出して認定を受ける必要があるが、米国防兵たん局(DLA)は請願のたびに危険性を指摘していた。保管が長引くと、人為的ミスや災害などで「米軍関係者や基地内・周辺に住む人々、周辺環境への暴露リスクが増す」と警告したのである。
その後、米軍は理由を説明しないまま方針を変更し、現在に至るまでPCB廃棄物を日本国内の基地内に残す対応を続け、日本側に処理を肩代わりさせている。
PCBの危険性が周知されたのは1968年のカネミ油症事件だ。全身の倦怠感(けんたいかん)やしびれ、食欲不振、皮膚の黒ずみ、吹き出物などが多数報告され、製造禁止になった。2001年にはPCB特別措置法が施行され、保有者は量と管理の状況を都道府県へ届け出ることになった。高濃度PCBは23年3月、低濃度は27年3月が処理の期限だ。
残留性有機汚染物質の製造や使用を禁止する国際的な取り決めのストックホルム条約は、PCBを25年までに使用全廃、28年までに処理することを求めている。米国は同条約を批准していないが、国内法でPCBを規制し、処理を進めている。ところが、在日米軍は高濃度のPCBを含む機器を現在も使用し続けていたことが昨年明るみに出た。許しがたい二重基準だ。
日本国内ではPCBの流通量を把握するため、民間事業者には都道府県への報告義務があるが、米軍は日米地位協定の特権を背景に実態把握や日本側への報告を拒んできた。その結果、日本政府は現在どの基地にどのぐらいの量のPCB製品が残っているのか全容を把握できていない。米軍の対応はあまりにも無責任だと言わざるを得ない。
基地内環境汚染は県民に害を与えるだけでなく、経済活動にも影響を及ぼす。
1996年に恩納村の米軍恩納通信所跡地で大量のPCB含有汚泥が見つかったが、米軍は返還地の原状回復義務を免除した日米地位協定を盾に引き取りを拒んだ。日本側は2014年に国内の処理施設で処理を終えたが、県民を不安に陥れ、跡地利用を遅延させた。
PCB以外にも、有機フッ素化合物(PFAS)の水汚染など米軍に起因する環境問題に直面している。米軍の無謀をこれ以上許してはならない。政府は在日米軍基地から派生する環境汚染問題の元凶である日米地位協定の改定を米側に求めるべきだ。