<社説>「共同親権」衆院可決 子の利益配慮した議論を


<社説>「共同親権」衆院可決 子の利益配慮した議論を
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 離婚後の共同親権を導入する民法改正案が16日、衆院で可決した。今後、参院に送られ、今国会で成立する公算が大きい。成立すれば公布後、2年以内に施行される。

 共同親権導入には、ひとり親家庭の当事者団体などから異論が出ている。元配偶者による家庭内暴力(DV)を断ち切れなくなるとの懸念を払拭できないからだ。参院はこうした不安に向き合い、丁寧な審議に徹してほしい。拙速な法改正は許されない。
 日本は1947年の民法改正で、婚姻中は共同親権、離婚後は父親か母親のいずれかが親権を持つ「単独親権」の制度を採用した。法改正から80年近くが経過し、現在は家族の形態も多様化している。
 共同親権の議論の発端は、離婚後の養育費の分担などを決めるよう定めた2011年の民法改正時にさかのぼる。改正に際し、国会の付帯決議に「離婚後の共同親権の可能性を含めた検討」が盛り込まれた。元配偶者との協議が円滑に進まず、自分の子どもに会えないという不満を持つ親は少なくない。離婚後も親権が確保され、子どもに面会しやすくなれば、こうした親に歓迎されるだろう。
 一方、DVや虐待の被害者にとっては不安がつきまとう。元配偶者との関わりを持つことは安全を脅かすことになるからだ。DVや虐待が原因で離婚に至った場合、共同親権を認めることで再び被害を受けるのではないかと不安に思うのは当然だ。
 海外では米国やドイツ、フランスなどは共同親権が認められている。ただ、多くの国で裁判所がDVなどがあると判断した場合、原則として共同親権は認められない。
 今回の改正案を巡っては、共同親権の選択について「父母双方の真意」を確認する措置を検討するとの付則を付けた。父母の意見が一致しなければ家庭裁判所が「子の利益」を踏まえて判断する。DVや虐待などの恐れがある場合は、家裁は単独親権としなければならない。今回の改正案が元配偶者によるDVや虐待を防ぎ、子の利益を担保することができるか精査が求められる。
 全国で最も離婚率の高い本県でも親権の在り方や支援などについて注意を払う必要がある。県調査では離婚後の親権を母親が持つ割合は約8割に上るが、ひとり親家庭の約4分の3は非親権者の経済的事情で養育費を得ていないという調査結果もある。
 共同親権にとどまらず、養育費の義務や公的支援についても改めて議論を深めるべきだ。子どもの健やかな成長を阻害する要因は大人が責任を持って取り除く必要がある。
 子どもが安心して生活できるよう、これからも共同親権の導入には慎重な審議が求められる。養育費の不払い対策や社会保障の拡充に向けても社会全体で取り組むことが大切だ。子どもの幸せを最優先とした議論に徹してほしい。