下地敏彦宮古島市長が市議会で「宮古島への陸上自衛隊については了解する」と述べ、同島への陸自配備賛成を正式に表明した。
しかし、防衛省はつい1週間ほど前にようやく1回目の説明会を開いただけだ。とても説明を尽くしているとは言えない。そんな段階での賛成表明は唐突だ。
まして実際に配備するのは拙速過ぎる。この状態での造成着手は許されない。
既成事実化を進め、住民に諦めの意識が生じたところで民意を問う。与那国島への自衛隊配備はそんな手順で進められた。防衛省にとっては強烈な成功体験であろう。その繰り返しを狙う。下地市長や防衛省にそんな算段があるのだとしたら容認できない。
まず民意を問うべきだ。住民投票を実施して、その判断に従うべきだ。それが民主主義と自治のあるべき姿であろう。
計画では地対艦ミサイルと地対空ミサイル部隊、そしてその基地を守る警備中隊、計700~800人を配備する。弾薬庫、実弾射撃場なども整備する。
海洋進出を進める中国を警戒し、島嶼(とうしょ)部の防衛力を強化するというのが名目だ。具体的には、沖縄本島と宮古島の間の公海を通る中国軍艦ににらみを利かすというのが狙いであろう。
だが中国からすれば、公海を通るだけでミサイルの照準を定められるということになる。自国の安全を高めるため軍拡すれば、脅威に感じた相手国も同じようにし、緊張を高め合ってついには双方とも望まなかった戦争に突入してしまう。そんな「安全保障のジレンマ」を地でいく事態ではないか。
そもそも敵の軍隊・基地がある所を攻撃するのは軍事の常識だ。軍が配備された島では激烈な地上戦に住民が巻き込まれる。軍隊は住民を守らない。それが沖縄戦の教訓である。
防衛省が示した2カ所の候補地のうち、旧大福牧場周辺は飲料水の地下水源が近くにあることから、下地市長は汚染の可能性が否定できないとして反対の意思を示した。配備先が不明なままで配備自体には賛成するというのも理解し難い。
こうした疑念を払拭(ふっしょく)できるだけの説明が尽くされたとは言えない。むしろ何一つ解消されていないとさえ言えよう。このまま配備の既成事実が進むのは許されない。やはり民意を問うべきだ。