<社説>新基地使用協定要請 米軍が守る保証はない


<社説>新基地使用協定要請 米軍が守る保証はない
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 名護市辺野古の新基地建設で渡具知武豊市長は、15日の政府との協議で基地使用協定の締結を要望した。協定は新基地を発着する米軍機の飛行ルートや環境保全に向けた立ち入りに関する内容が想定されている。

 県民の多くが新基地建設反対を訴える中で、協定締結を求めた名護市長の対応には疑問が残る。現時点で渡具知市長は新基地建設に対する賛否を表明していない。協定締結要請は新基地建設を前提としており、市長は容認したものと市民は受け止めよう。

 政府との協議について渡具知市長は「移設を認めるということではない」と説明する。しかし、新基地建設の進捗(しんちょく)状況に応じて支払われる再編交付金を名護市は受けている。市長の姿勢とは矛盾しないか。今回の協定締結要請も含め、市民に説明すべきだ。

 過去の経緯から見て、使用協定締結を求める渡具知市長の要請をそのまま政府が受け止めるとは考えにくい。

 1999年12月、当時の岸本建男名護市長は普天間代替軍民共用空港の建設を受け入れた際、基地使用協定の締結を含む7条件を国に提示した。それを受け、政府は稲嶺恵一知事が求めた15年使用期限設定の取り扱いや北部振興策の推進などと共に使用協定の締結を含む「普天間飛行場の移設に係る方針」を閣議決定している。

 しかし、米軍再編協議で両政府が現行のV字滑走路案に合意したことに伴い2006年5月、99年の閣議決定が廃止され、使用協定の協議も打ち切られた。今回も政府の都合で名護市の要請を軽んじる可能性がある。渡具知市長も協定締結に「高いハードル」があることを認めている。

 そもそも使用協定を結んだとしても、米軍が履行する保証はない。V字案が合意された際、2本の滑走路を使い分けることで集落上空の飛行を回避するとの政府の説明は当時から疑問視されてきた。米軍は地域の安全や住環境を軽視し、協定にも反して新基地を使用する恐れがある。現在の普天間飛行場の飛行経路も地域住民の暮らしを考慮したものとは言いがたい。

 既存の協定や日米合意事項すら守られていない。普天間飛行場と嘉手納基地の航空騒音軽減のため日米両政府が定めた午後10時から午前6時の夜間飛行制限(騒音防止協定)から逸脱した運用が恒常化しており、協定の形骸化が指摘されている。

 住民の負担軽減を図るため、嘉手納基地所属のF15戦闘機を用いた訓練の本土分散移転が06年の日米再編合意に盛り込まれたが、外来機の暫定配備などによって騒音は激しさを増している。

 米軍基地に関する協定や日米合意を米軍が破り、日本政府もそれを半ば黙認しているのが実情だ。辺野古新基地の使用協定も同じ状況に陥りかねない。渡具知市長はそのことを認識すべきだ。