<社説>はえ縄切断 責任の所在 明らかにせよ


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 起きてはならない事故がまたしても起きた。糸満沖の公海で発生したマグロ漁船のはえ縄切断だ。

 現時点で米軍艦船が原因かは判明していないが、同じ海域では2014、15年と連続して米海軍の艦船が関係するとみられる事故が起きている。今回も被害に遭った漁船乗組員の目撃証言で米軍艦船の関与が疑われている。
 問題なのは、米軍側が14、15年の事故を含め、いまだに事故への関与を認めないことだ。日本政府も解決に向けて実効性ある対策を取ったのか疑問だ。海の安全と漁業者の生活を守るためにも、速やかに日米両政府は責任を認め、対策を取るべきだ。
 15年の事故では漁船乗組員が写真を撮影し、米海軍の音響測定艦が、はえ縄の真上を航行したことも分かっている。これだけの証拠があるにもかかわらず、軍事機密を盾に米海軍は関与を認めていない。
 米海軍から委託を受けて運航していた民間の海運会社も「機密」を理由に事実関係を明らかにしないまま、示談交渉も難航している。
 今回の事故でも米軍側は沖縄防衛局の問い合わせに対して、関与したのかどうかを回答せず「公海上の事案のため、日米地位協定上の事案にならず、また漁業者が米海軍法務部に対して損害賠償ができる」と答えたのみだ。
 過去の事故を振り返っても分かるが、補償を求めるには被害者である漁業者が米軍艦船と特定できる情報や、損害額などの見積もりを準備しなければならない。
 自らの非を認めず、煩雑な手続きまで押し付ける対応を米軍側は取ってきた。果たして米国民にも同じことができるのだろうか。
 そもそも事故の背景には、日米安保条約に基づき、米軍が日本に駐留していることがある。沖縄近海で米海軍が自由に振る舞うことができるのは、日本政府にも責任の一端がある。
 日本政府は米海軍に事実関係を照会し、責任の所在を明らかにする義務がある。補償交渉にも積極的に乗り出すべきである。
 陸上のみならず、海上でも県民生活を脅かすのであれば軍事基地は沖縄に必要ない。米軍絡みの事件・事故で日米両政府は何度も「再発防止策」を掲げてきたが、実効性がないことを県民は知っている。再発防止への近道は、もはや軍事基地の撤去以外にあり得ないことを日米両政府は知るべきだ。