<社説>駐日米大使先島視察 地元無視の強行許されぬ


<社説>駐日米大使先島視察 地元無視の強行許されぬ
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 ラーム・エマニュエル駐日米大使が17日に米軍機で与那国、石垣島を訪れ、両島の陸上自衛隊駐屯地などを視察した。沖縄県が軍用機の空港使用を自粛するよう再三申し入れていたにもかかわらず、使用を強行した。

 地元の要請を無視し、戦争に巻き込まれるのではないかと不安を覚える住民感情を逆なでする訪問の仕方は、外交官にあるまじき横暴な振る舞いだ。中国を挑発するような言動で日本周辺の緊張を高めることはもってのほかだ。
 沖縄は「軍事植民地」ではない。米中対立の最前線に南西諸島を位置付け、沖縄の島々を自由に利用しようとする日米の一体化戦略に歯止めを掛けなければならない。
 異例の先島訪問の目的が「軍事」だったのは明白だ。エマニュエル氏は海兵隊機で島に乗り付け、在沖米軍トップのロジャー・ターナー四軍調整官が視察に同行した。与那国島では「抑止力をしっかり示すために日米がパートナーシップを結ばないといけない」と強調し、中国を牽制(けんせい)する発言を繰り返した。
 与那国空港を米軍機が使用するのも記録が残る1997年以降で初めてだ。陸自幹部も自衛隊の連絡偵察機で同行移動したため、自衛隊機も県の自粛要請に反する形で与那国空港に飛来した。
 自衛隊と米軍は、民間の空港や港湾の利用拡大を図っている。日本政府は4月、有事の際の自衛隊や海上保安庁による使用に備えて整備する「特定利用空港・港湾」に、那覇空港、石垣港を含む7道県の計16カ所を選定した。今回の与那国、石垣両空港の使用は、さらなる拡大に向けた布石に映る。
 自粛を求めた沖縄県が指摘したように、視察自体の緊急性は高くなく、民間機などを使って移動する手段もあったはずだ。米軍による空港使用の先例をつくり、平時からのインフラ使用をなし崩しに実施していく狙いがあるとしか考えられない。
 陸海空3自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」の創設では、自衛隊と米軍の連携が進む。憲法が禁じる他国軍の武力行使との一体化につながる恐れが指摘される。岸田文雄首相は「米軍の事実上の指揮・統制下に自衛隊が置かれることはない」と述べたが、今回の大使による陸自駐屯地の視察は、米軍の指揮の下に自衛隊が「台湾有事」の前面に出ていく想定で一体化が進んでいることを米国が見せつけたと言えよう。
 「抑止力」の応酬は、後戻りできない軍事のエスカレートを招くだけだ。20日に台湾新総統の就任を控え、中台関係が政治的に過敏な時期でもある。2022年のペロシ米下院議長(当時)の訪台に中国が台湾周辺での大規模軍事演習で対抗し、沖縄近海も緊迫したことは記憶に新しい。
 エマニュエル氏の強硬姿勢は、抑止どころか波風を立てる火種となりかねない。