<社説>年金運用損失5兆 安定第一に切り替えよ


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 私たちがこつこつ積み立てる年金が、世界市況の乱高下にさらされている。先行きに不安を覚えるのも当然だろう。

 公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、2015年度の決算で5兆数千億円の運用損失を計上することが分かった。株価の下落で、10年度以来5年ぶりの赤字となった。
 これに対し安倍晋三首相は「政権交代後の3年間で約38兆円の運用益が出ている。運用は長期的な視点で行い、短期的な評価はすべきでない」と反論している。
 確かにGPIFの年金運用は11~14年度までは黒字を計上している。しかし14年10月に運用資産の内容を見直し、比較的安定した日本国債などの割合を60%から35%に減らし、逆に12%ずつだった国内株式と外国株式を計50%に引き上げた。
 見直しにはアベノミクスを進める政権の意向が働いたと言われる。GPIFが株式の割合を引き上げた同じ日に日銀が金融緩和を発表し、株高が進んだ。
 GPIFは国内株式市場に占める保有割合が約8%という巨大な機関投資家だ。その資金流入によって市場が安定した。結果として年金積立金が株価を下支えしたと言える。14年度は過去最高となる15兆円の黒字を計上した。
 だが、15年夏には中国の先行き懸念に伴う「チャイナ・ショック」があり、7~9月期はわずか3カ月で7・9兆円の損失を出した。
 単年度の赤字が即、年金支給額に響くわけではないが、損失が続けば年金財政に影響する。英国のEU離脱など世界経済が不透明な中で、安定運用は可能だろうか。
 政府は昨年12月、株価が「リーマン・ショック級」に下落した場合、運用損失は約26兆円に上ると試算した。安倍首相は2月の衆院予算委員会で、GPIFの運用が長期的に不調だった場合、「想定の利益が出ないことになれば、当然支払いに影響する」と年金支給を減額する可能性に言及した。運用損は国民につけが回ると認めた。
 さらに前年度の運用結果の公表も、例年は7月上旬だが、今年は3週間ほど遅い参院選後の29日だ。野党に「損失隠しだ」と批判されても仕方がない。
 国が優先すべきは年金の長期安定運用だ。運用比率の見直しなどで、国民が老後の蓄えに不安を覚えないよう策を取ることが必要だ。