<社説>「共同親権」成立 残る懸念、導入は拙速だ


<社説>「共同親権」成立 残る懸念、導入は拙速だ
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 離婚後の共同親権導入を柱とする改正民法が参院本会議で賛成多数で可決、成立した。1947年から続く親権制度の見直しにもかかわらず、国会審議で浮かび上がった懸念は解消されないままだ。拙速な導入と言わざるを得ない。

 共同親権導入は、離婚の増加などで家族関係が多様化する中、子の利益の実現のため、別れた後も父母双方が養育に関わることができるようにするのが狙いだ。これまで離婚後は父母どちらか一方を親権者にすると定めていたが、共同親権も選択可能となり、父母の協議で決める。既に離婚した父母も共同親権への変更申し立てができる。

 ドメスティックバイオレンス(DV)や虐待の恐れがある場合には、家庭裁判所の判断で単独親権にすると規定されたが、DV被害者の懸念は解消されていない。被害者からすれば、加害者との接点が生まれる可能性があり、再び被害を受けるのではないかとの不安は拭えない。

 家庭内で起きるDVや虐待は顕在化しにくく、声を上げることができない被害者も多い。家裁の態勢整備もこれからであり、それぞれのケースで適切に判断できるかも課題が残る。

 一方、共同親権導入は子の利益の実現が目的とされるが、「子の意見表明権」は見送られた。共同親権の選択にあたっては、子の意思も最大限尊重される形にすべきではなかったか。

 法制審議会でも子の意見表明の取り扱いは議論になったが「子に親を選ばせるのは酷」との考えから見送られたという。共同親権となった場合、政府は転居や進学先は父母双方の同意が必要との線引きを示したが、子の利益を実現するにはその意思を尊重することが重要だ。特に一方の親によるDVや虐待により離婚した場合、子の意見表明の機会を担保することも必要ではないか。日本も批准している「子どもの権利条約」では、子どもが自分自身に関する事柄について自由に意見を表明できる権利を保障している。法の施行までに何らかの措置を講じるべきだ。

 法案は3月14日の衆院で審議入りした。長年続いた親権の在り方を見直す大きな転換点であるのに、わずか2カ月で成立した。多くの課題が明らかになったが、政府は成立を急いだように見える。

 父母が離婚後も対等に協力できることは好ましいが、離婚の事由はさまざまだ。DVなどにより夫婦関係が破綻したにもかかわらず、父母が一緒に子育てすることが「理想像」という価値観を強要することになれば、被害者をさらに追い詰める事態にもなりかねない。DV防止や被害者支援もさらに拡充すべきだ。

 改正民法は2026年に施行される見込みだ。「法定養育費」創設など一定の評価もできるが課題は依然多い。施行までに課題解消に向けた取り組みが求められる。