<社説>特定利用空港に反対 軍事化への危機感示した


<社説>特定利用空港に反対 軍事化への危機感示した
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 自衛隊や海上保安庁による利用円滑化を前提にした国の「特定利用空港・港湾」の指定を巡り、竹富町の波照間島の住民らが整備候補に挙がっている波照間空港の滑走路延長に反対する意思を玉城デニー知事に伝えた。軍事化に対する危機感の表明である。

 「特定利用空港・港湾」指定は有事を見据えて部隊の展開や訓練ができる施設の整備を目的とする。住民らで組織する波照間公民館は総会で反対の意見が多数となり「自衛隊使用が島の安心・安全に重大な障害になるとの危機感」があると知事に伝えた。

 県管理の波照間空港は小型プロペラ機に対応した空港で、滑走路は800メートル。波照間の住民らはこれまで利便性の向上や観光客の誘致などを目指し、現在より乗客数の多い航空機の発着が可能となる1200メートルに延長することを町を通じて県に要請してきた。

 管理者である自治体との協議を経て空港・港湾を整備する「特定利用空港・港湾」事業には、県内から那覇、下地島、久米島、宮古、新石垣、波照間、与那国の7空港と中城、那覇、平良、石垣、比川(新設)の5港が候補に挙がり、本年度は国管理の那覇空港と石垣市管理の石垣港が指定された。

 この事業の問題点は予算付けの在り方にある。有事想定の空港・港湾整備は沖縄関係予算の「公共事業関係費等」の枠内で予算付けされ、協力的な自治体が優先的に予算獲得できる仕組みである。

 波照間の住民の間には「滑走路を延長して自衛隊が使用する代わりに那覇との直行便を開通することはできないか」と特定利用空港への指定を理解する声もあったという。滑走路の延長が実現する機会ではないかと期待することは理解できる。

 一方で「戦争につながる空港にしたくない」との反対の声が多くを占めた。沖縄戦で、日本軍の拠点となった飛行場や港が米軍の爆撃を受けた。軍事拠点として整備されれば、有事の際に標的となり得る。住民らの懸念は当然だ。

 軍事拠点化に抵抗する住民にも滑走路延長への期待はあるはずだ。逆に指定を容認する住民も軍備増強への懸念を抱いていよう。滑走路を延長する場合でも、下地島空港の軍事利用を避けるため国と琉球政府が1971年に「屋良覚書」を交わした時と同様の対応を求めていく考えだ。これも住民の危機感の表れだと言える。

 地域振興への地元の思いを逆手に国策を推進すれば、地域分断を招くことにもなりかねない。政府の手法としてあってはならないはずだ。政府は振興の在り方で選択を迫り、地域を翻弄(ほんろう)するような施策を強行すべきではない。沖縄振興の理念に反する。

 住民が安心して暮らせる将来像を描き、実行することが本来の沖縄振興の姿である。それから逸脱するような国策の押し付けは許されない。