<社説>大浦湾サンゴ移植 保全無理なら作業やめよ


<社説>大浦湾サンゴ移植 保全無理なら作業やめよ
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 米軍普天間飛行場の移設に伴う辺野古新基地建設で沖縄防衛局は24日、大浦湾側に生息するサンゴ類約8万4千群体の特別採捕(移植)に向けた作業に着手した。

 沖縄防衛局による2022年7月のサンゴ特別採捕申請の許可を求める政府の「指示」に従い、県は23日にサンゴ採捕を許可した。許可に際し、県は(1)移植作業に係る詳細の報告(2)海水温などの海象条件および作業状況の2週間ごとの報告―の条件を付している。

 サンゴ移植を巡る訴訟で県敗訴が確定しており、今回の許可は判決の結果に従ったものだ。玉城デニー知事は「辺野古新基地建設に反対する立場はいささかも変わるものではない」としている。

 新基地反対の姿勢を堅持するならば二つの条件を防衛局に厳守させなければならない。さらに移植によってサンゴが保全できるのか厳しく監視する必要がある。環境省による検証作業も求められよう。サンゴ保全は不可能だと判断されれば、ただちに県は移植作業の中止を求めるべきだ。無論、国もサンゴ移植作業をやめ、大浦湾埋め立て工事も中止すべきだ。

 そもそも、移植によって大浦湾の豊かなサンゴを守ることができるのか。

 沖縄防衛局が18年に辺野古沿岸部から移植した絶滅危惧種オキナワハマサンゴ9群体のうち7群体は死滅していることが、新基地建設工事で有識者から助言を得る環境監視等委員会で報告されている。

 21年7月から22年3月にかけて辺野古崎から大浦湾沖合に移植した小型サンゴ類の状態を調査した日本自然保護協会も「移植に成功している群体がある一方で、多くの群体は死滅した部分がある」と指摘し、「成功しているとは到底考えられない」と断じた。研究者も移植によるサンゴ保全を進める防衛局の姿勢を疑問視している。

 これまでのサンゴ移植の実態を直視するならば、移植によるサンゴ保全は極めて困難だと言わざるを得ない。それにもかかわらず、政府はサンゴ移植に先行して大浦湾側の工事を進めている。沖縄防衛局は「サンゴ類の生息環境は維持される」という想定結果を示しているが、無謀な工事ではないか。

 このような環境軽視の姿勢はジュゴンに関しても当てはまる。沖縄防衛局は20年にジュゴンの鳴き声らしき音声が検出されたことを受けて実施してきた追加調査を終了し、生息状況調査のみに縮小する。環境監視等委員会はこの方針に同意した。しかし、22年に県が実施した調査で久志沿岸部でみつかったふんからジュゴンのDNAが検出されており、調査縮小は早計である。

 国は本気で大浦湾の環境保全を考えているのか極めて疑問である。サンゴやジュゴンの保護を度外視した工事強行は許されない。もちろん、抜本的な環境保全策は新基地建設の断念である。