<社説>日本版DBS衆院通過 真に子どもを守る社会に


<社説>日本版DBS衆院通過 真に子どもを守る社会に
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 子どもたちを性暴力から守るために、さらに論議を深めるべきだ。

 子どもと接する仕事に就く人の性犯罪歴を雇用主側が確認する「日本版DBS」創設法案が、衆院本会議で全会一致により可決された。法案は参院での審議を経て今国会で成立する見通しだ。

 法案では、学校や保育所などに確認を義務化するほか、国の認定を受けた学習塾なども同様の義務を負う。性犯罪歴がある人は、刑終了から最長20年採用されないなど就業を制限する内容だ。性犯罪歴がない人でも、雇用主側が「性加害の恐れがある」と判断すれば、安全確保措置が必要になる。

 子どもの被害が後を絶たない中、教育や保育現場での性被害を防止することが日本版DBSの狙いだ。ベビーシッター仲介サイトに登録した男2人が2020年に逮捕された事件をきっかけに創設の機運が高まった。子どもは被害の声を上げにくく、心に深い傷を残すこともある。性暴力は断じて許されるものでなく、教育の場などで優位的立場を利用して性加害を犯すことはもってのほかだ。

 21年には、わいせつ行為による懲戒処分で免許を失効した教員に対し、都道府県教委が再交付を拒否できる「わいせつ教員対策法」が成立した。日本版DBS創設法案は、さらに社会全体で子どもを守るためにも評価できよう。

 しかし、さまざまな課題も残る。確認を義務付ける性犯罪歴に、下着の窃盗やストーカー規制法違反などは含まれない。加藤鮎子こども政策担当相は「人に対する性暴力とは言えない」と、対象に含まれないと答弁している。

 ストーカーなどは繰り返すこともあり、性暴力や重大な犯罪につながる恐れもある。確認対象に含めるよう求めるオンライン署名は3万人を超えている。政府はこれらの声に真摯(しんし)に耳を傾けるべきだ。

 職種では、認定を受けない事業者や雇用関係を持たない個人事業主は対象外だ。また、性犯罪歴の確認対象に痴漢や盗撮といった条例違反は含まれるものの、被害者と示談し不起訴となった場合なども含まれていない。

 衆院の特別委員会では、性犯罪歴を確認する対象拡大の検討を求める付帯決議を採択した。実効性ある法律とするためには、これら確認対象の範囲の在り方について、さらに議論を深めてほしい。

 日本版DBSを巡っては職業選択の自由のほか、加害者更生との兼ね合いも論点としておかねばならない。雇用主側の恣意的な運用で人権を侵害することがないよう、政府が作成する判断基準のガイドラインについても、参院審議で明らかにすべきだ。

 子どもたちを性被害から守るためには、合わせて性加害を生まないための啓発活動や、被害に遭った子どもたちの支援拡充などにも取り組む必要がある。