<社説>参院選 社会保障 制度維持の政策を示せ


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 参院選で有権者の関心の高い分野が年金、医療、介護などの社会保障だ。

 安倍晋三首相が延期した消費税増税に代わる社会保障充実の財源はどうするのか。財源が確保できなければ年金給付を抑制するのかどうか。各党は年金制度を維持するための具体策を明示した上で、有権者の審判を仰ぐべきだ。
 2015年の総人口に占める65歳以上の高齢者の割合(高齢化率)は1920年の国勢調査開始以来最高の26・7%となり、初めて高齢者が4人に1人を超えた。60年には高齢化率は約40%と予測されている。このため年金、医療、介護の給付は15年度の119兆8千億円が、25年度は148兆9千億円に膨れ上がる。
 契約社員、パートなどの非正規雇用の割合は40%に達する。給与は正社員より大幅に低く、格差が広がっている。加えて沖縄など8都県を除き人口が減少している。賃金格差と少子高齢化が進む中で、現役世代1人が複数の高齢者を支えることは難しい。
 公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、15年度の決算で5兆数千億円の運用損失を計上する。例年7月上旬までに前年度の運用結果を公表しているが、今年は3週間遅らせ参院選後に発表する。年金の積立金の目減りが選挙の争点にならないための「損失隠し」と疑われても仕方ない。
 損失が発生したのは、安倍政権の意向を受けてGPIFが資産運用先をリスクの少ない国内債券から、リスクの高い国内株式へ投資する割合を増やしたからだ。
 安倍首相は2月の衆院予算委員会で「想定の利益が出ないことになれば、当然支払いに影響する」と述べ、年金減額の可能性に触れている。株安が進み、さらに損失が膨らめば政権の責任が問われる。
 一方、政府は膨らみ続ける社会保障費を抑えるため、掃除や調理、買い物など高齢者の在宅生活を援助する介護サービスの縮小を検討している。参院選後に議論が加速する見通しだが、与党は公約では触れず「介護離職ゼロ」「介護施設の整備」など積極的な言葉が並ぶ。これは参院選の争点隠しではないか。
 野党も政府批判を強めるだけでなく、社会保障制度の維持について与党との違いを提示しなければ、有権者は納得しないだろう。