<社説>地自法指示権拡大 自治介入の懸念拭えない


<社説>地自法指示権拡大 自治介入の懸念拭えない
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 憲法が定める地方自治の本旨を覆し、国が介入する懸念は拭えないままだ。地方自治法改正案が衆院本会議で賛成多数で可決された。

 大規模災害など非常時に自治体への国の指示権を拡大することが狙いだ。感染症の流行などの際に国主導の迅速な対応を可能とし、国の責任も明確化できると政府は説明するが、拡大した指示権を行使する際の具体例は、国会審議でも明らかにされなかった。

 野党は政府による指示権乱用の歯止めが不十分と指摘したが、議論を尽くさぬまま審議は打ち切られ、採決した。

 非常時の避難や治療などの諸対応で円滑な運用がなされることは望ましい。しかし、現行法制で国の指示権が発揮できないかと言えばそうではない。災害対策基本法など個別の法律に規定があれば行使は可能だ。総務省によると、自治体への国の指示や命令を定めた規定はさまざまな法律に計362項目あるという。

 こうした規定を適用し、個別具体例に従って、現行法制下でどのような連携が可能なのかを検証することが先決ではないか。

 指示権の拡大は大型クルーズ船のコロナ集団感染時、患者受け入れの調整が難航したことなどを踏まえて首相の諮問機関が2023年末に法制化を答申していた。

 その必要性を明らかにすべき国会審議では、当然、現行法で対処できない具体的なケースについて政府は説明すべきだ。しかし、松本剛明総務相は「個別法では想定されていない事態」「現時点で想定し得るものはない」との説明を繰り返し、議論は深まらなかった。

 政府の介入を排し、地方自治体が自主的な行政を運営することが地方自治の本旨である。憲法は地方自治に1章を設けて地方の自治権を保障している。知事や市町村長、議会の権限が限定的であった明治憲法下の中央集権的な地方自治を大きく転換した。

 さらには1995年の地方分権推進法、99年の地方分権一括法の制定によって国からの権限を地方移譲した。法定受託事務の透明化など地方の権限はよりあついものとなったはずである。しかし、今回の地方自治法改正はそれと逆行するものだ。

 沖縄では普天間飛行場返還移設問題で国の強権が鮮明だ。辺野古埋め立てに反対する県の権限をことごとく奪うような形で建設に固執している。玉城デニー知事は「地方自治の本旨をないがしろにするものだ」と批判してきた。

 国の指示権をより強化し、国策に異論を唱える地方行政に恣意(しい)的な介入をするのではないか、自治体側は懸念している。全国知事会の要望を受けて関係自治体との事前協議を行うことが盛り込まれたが、義務として協議を国に課しているわけではない。

 自治・分権に逆行するような地方自治法改正を受け入れるわけにはいかない。