<社説>沖縄「慰霊の月」 体験継承の意義再確認を


<社説>沖縄「慰霊の月」 体験継承の意義再確認を
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 戦争犠牲者を悼み、平和を希求する沖縄の「慰霊の月」が今年も巡ってきた。戦後79年を迎え、戦争体験継承の意義をあらためて考えたい。

 旧南洋群島の戦闘で犠牲となった県出身者を追悼する「慰霊と交流の旅」の一行37人がサイパン島を訪れている。テニアン島にも渡り、両島で追悼式を開く。

 1944年、日本の委任統治領だった南洋の島々に米軍が上陸し、激しい戦闘で県出身者も命を落とした。引き揚げ者でつくる南洋群島帰還者会が68年から2019年まで慰霊墓参を重ね、現在は旅行社が引き継いでいる。体験者や遺族の高齢化が進む一方で孫世代が参加し、南洋の戦争を学んでいる。体験継承の一つのかたちと言えよう。

 南洋の島々で戦禍に巻き込まれ、犠牲となった県出身者は1万2826人とされる。小さな島に軍民が混在したサイパンやテニアンの地上戦の最中には「集団自決」(強制集団死)が起きた。

 この悲劇は翌年の沖縄戦で繰り返された。沖縄戦と共に、アジア・太平洋の島々であった悲惨な戦争を語り継がなければならない。

 毎年6月になると、23日の「慰霊の日」を中心に県内各地で慰霊祭が開かれる。学校では平和学習の時間が設けられている。

 しかし、証言や語り部、書籍や手記の執筆などを通じて体験継承活動を担ってきた戦争体験者は年を追うごとに減っている。学徒隊体験を語り継いできた旧制中学校の同窓会組織の解散も相次いでいる。沖縄戦体験者の減少は避けることができない。体験継承を続けるための方策が必要となっている。

 高齢化した沖縄戦体験者の証言収集が急がれる。市町村や字・自治会単位の史誌編集作業を通じて、さまざまな証言が掘り起こされてきた。この取り組みを今後も続けたい。これは時間との勝負である。

 同時に沖縄戦の実相を伝える人材の育成が求められる。これまでも平和ガイドの養成など地道な活動が続けられてきた。沖縄の島々によって戦争体験は異なる。米軍が上陸した沖縄本島内でも地域によってさまざまな体験がある。これらの体験を次世代へ伝える若い継承活動の担い手を地域の中で育てたい。

 戦争遺跡の保存活動も重要となる。県は首里城地下にある第32軍司令部壕の保存・公開を進めているが、地域に残るガマや軍陣地跡などの戦争遺跡の所在確認と保存を急ぐべきだ。沖縄戦を物語る「場所」の価値を、体験継承の中に位置づけたい。県が進めている県平和祈念資料館のリニューアル作業も平和発信事業として重要である。

 「新たな戦前」とも呼ばれる困難な状況にあらがうためにも、沖縄戦から教訓を引き出し継承する活動が求められる。それが平和構築の礎であることを確認したい。