<社説>政治資金再修正案 不信の払拭にはほど遠い


<社説>政治資金再修正案 不信の払拭にはほど遠い
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 数合わせに終始した小手先の修正だ。国民が求める政治改革にはほど遠い。

 岸田文雄首相が今国会での成立を明言してきた政治資金規正法の改正は、自民党が公明党、日本維新の会の要求を受け入れた再修正案を提示した。だが、企業・団体献金には引き続き言及せず、政策活動費の透明化は先送りする内容だ。国民が厳しい目を向ける「政治とカネ」の元凶に切り込もうとしない、これまでの案と何ら変わりない。

 今国会での法改正実現を優先し、自公維の多数で採決に持ち込むという腹積もりであれば、主権者不在の党略と言うしかない。国民の間に渦巻く不信感は増幅するばかりだ。自民は採決を急ぐのではなく、再修正案について徹底した審議を尽くすべきだ。

 再修正案は、「事実上の企業・団体献金」と批判がある政治資金パーティーについて、パーティー券購入者名の公開基準額を、現行の「20万円超」から「5万円超」に引き下げるとした。当初の自民案は「10万円超」としていたが、公明は「5万円超」を主張して譲らなかった。

 岸田首相が自民党総裁として公明の要求をのんだことで、連立パートナーの合意を取り付けた形だ。しかし、パーティーの開催を増やして1回当たりの購入金額を低くすれば公開しなくてすみ、なお抜け穴となりかねない。

 そもそも、政治資金パーティーや企業・団体献金がなぜ必要なのかということに、納得のいく説明はない。野党は一致して「企業・団体献金の禁止」を求めているが、自民は再修正案でも拒んでいる。パーティー券購入者の公開基準を巡る与党内の綱引きに焦点を当てることで、政治とカネの本質的な議論をすり替えようとしているのではないかとの疑念が生じる。

 使途の公開が不要で「裏金の温床」と批判される政策活動費については、支出状況が分かるよう10年後に領収書を公開するとした。こちらは維新の主張を受け入れた形だが、裏を返せば領収書が公開されるまでの10年間は政策活動費の詳細な使い道が見えないままだ。政策活動費の禁止や領収書の全面公開という主張もある中で、政治改革に対する本気度が問われる。

 派閥からの資金還流を受けていた政治家が、政党への寄付控除で所得税の優遇を受けていたことも判明している。政治家の資金管理や法制度に抜け穴がないか、いま一度厳格な点検が必要だ。

 自民党派閥による裏金問題でわき上がっているのは、金の力で政治を支配する金権政治や、一部の企業と癒着した利益誘導政治がはびこっているのではないかという政治不信だ。信頼の回復には、政治資金の流れを国民の前に可視化し、不透明な部分を残さないことが不可欠だ。

 間違っても不十分な議論を数の力で押し切ることなどあってはならない。