<社説>トランプ氏有罪評決 さらなる分断を危惧する


<社説>トランプ氏有罪評決 さらなる分断を危惧する
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 米国社会の分断が、さらに深まることがあってはならない。

 トランプ前米大統領が2016年の大統領選時、過去に不倫関係にあった女性に口止め料を支払い、不正に会計処理したとして刑事責任を問われた裁判で、ニューヨーク州地裁の陪審は有罪評決を下した。大統領経験者への有罪評決は初となる。量刑は7月11日に言い渡される。

 評決後、トランプ氏は「不正な裁判で、私は無実だ」と主張、控訴する方針だ。

 11月には大統領選挙が控えており、再選を目指すバイデン大統領と返り咲きを狙うトランプ氏が再び対決する構図で、接戦が予想される。

 今回の有罪評決が、トランプ陣営にとってどのような影響を与えるのか。勝敗の鍵を握る接戦州で、無党派層の支持離れを招く可能性があるものの、トランプ氏の熱狂的な支持者が結束をさらに強めることは想像に難くない。

 トランプ氏は、今回の裁判以外にも、21年1月の米議会襲撃、ホワイトハウス執務室からの機密文書持ち出し、20年大統領選でのジョージア州の選挙結果介入の三つの事件で起訴されている。

 しかし、トランプ氏は「起訴は魔女狩りだ」「バイデン政権の指示で検察が訴追した」との持論を展開し、政治的迫害と訴えている。裁判を政治問題化することで支持者をあおり、求心力維持に司法の場を利用してきた。

 米議会襲撃事件では、20年大統領選の結果を受け入れず「不正」と訴え、支持者を扇動したとして弾劾訴追されている。この弾劾裁判は上院で、共和党から造反があったものの有罪に必要な出席議員の3分の2に届かず無罪となったが、選挙結果を頑なに認めず、支持者の議会襲撃をあおったことは、民主主義を危うくし、分断の深い傷を米国社会に刻みつけた。

 トランプ氏が今回の有罪評決を自らの選挙戦に利用し、憎悪や「復讐」を熱狂的な支持者にたき付けるならば、司法制度を揺るがしかねない。大統領に返り咲いた場合、指名する司法長官に自身の起訴を取り下げさせようとしているとの見方もある。そうなれば三権分立を否定する事態となり、民主主義は崩壊の道をたどる。

 再対決が確実な大統領選は、バイデン、トランプの両陣営が激しく対立し、中傷合戦に終始する可能性もある。

 経済政策や中東政策、ウクライナ支援の在り方、不法移民への対応、人工妊娠中絶など問われる課題は多く、選挙結果は世界情勢にも大きく影響する。対日政策では、在日米軍基地が集中する沖縄も、それぞれの主張を注視しなければならない。

 分断の根底には深刻な格差の問題がある。格差解消へいかに取り組むかが分断を乗り越える一歩になろう。両陣営による明確な政策論争が重要になる。