<社説>HPに牛島司令官辞世 自衛隊は「皇軍」に戻るのか


<社説>HPに牛島司令官辞世 自衛隊は「皇軍」に戻るのか
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 自衛隊は、日本を再び「皇国」とし、自らを「皇軍」にしたいのか。「誤解を招く」ではすまない事態がまた明らかになった。那覇市に拠点を置く陸上自衛隊第15旅団が、ホームページ(HP)に第32軍牛島満司令官の辞世の句を2018年から掲載していることが分かった。

 辞世「秋待たで枯れ行く島の青草は皇国の春に甦らなむ」は、沖縄を焦土とし多数の住民を死に追いやった責任者である司令官が、皇国において沖縄が甦(よみがえ)ることを願う内容だ。それを今、自衛隊が掲げることは、日本国憲法の理念からも、県民感情からも到底許せるものではない。ただちに削除を求める。

 この辞世は、HPの15旅団の沿革を紹介するページにある。1972年5月15日の日本復帰に際して、同旅団の前身の臨時第1混成群長だった桑江良逢氏(2010年死去)の訓示に続けて掲載されている。15旅団総務課は「訓示にはなかったが、桑江氏がこの言葉に強い思いがあったと聞き、載せたようだ」と説明した。なぜ桑江氏の死後、何年もたって掲載する必要があったのか。15旅団も防衛省も、その理由を説明する義務がある。

 1月に陸自の陸上幕僚副長ら数十人が靖国神社を集団参拝したことが問題となった。天皇のために殉じた者を神(英霊)として祀(まつ)る靖国神社は、東京裁判のA級戦犯を合祀(ごうし)しており、首相らの参拝を巡って中国、韓国が厳しく批判をするなど、外交問題にもなってきた。組織的集団的な参拝を「私的」としても、政治性を帯びざるを得ない。

 だが、3月の参院予算委員会で防衛省の人事教育局長は「自衛官が制服を着用して私的に参拝することに問題はない」「自衛官は自衛隊法などにより常時、制服を着用しなければならない」と答弁し、「私的な集団参拝」として正当化した。

 15旅団は04年以降、旅団長らが毎年6月23日の慰霊の日に牛島司令官らを弔う糸満市摩文仁の「黎明(れいめい)之塔」を参拝して批判を受けてきた。22年から中断しているが、15旅団は、「皇国」を称揚し、32軍と連続性を持とうとしていると受け止めざるを得ない。

 国民主権の日本国憲法下、日本には軍隊はなく、自衛隊は軍隊ではない文民統制の組織として存在してきた。天皇主権の「皇国」も、天皇の軍隊を意味する「皇軍」も、現憲法で否定したはずだ。

 教科書検定でも戦前回帰の動きが顕著になっている。特攻隊員の戦死を「散華」と表現し、沖縄戦の旧制中学校・師範学校生の戦場動員を「志願というかたち」と記述する令和書籍の中学校歴史教科書が検定を通過した。これらと防衛省・自衛隊の動きは連動していないか。「軍隊は住民を守らない」という教訓を譲ることができない沖縄にとって、「皇国史観」復活の動きは断じて認められない。