<社説>少子化対策法成立 施策の実効性が問われる


<社説>少子化対策法成立 施策の実効性が問われる
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 財源や国民負担など主要な論点に関する議論は深まらなかった。施策の実効性についても課題を残したままだ。活力ある国の将来像を描きながら、少子化対策の議論を重ねなければならない。

 岸田政権が目玉の政策と位置付ける少子化対策関連法が参院本会議で可決成立した。児童手当は支給を高校生の年代まで延長し、所得制限を撤廃する。第3子以降は月3万円に倍増する。育児休業給付も拡充される。児童手当や育児休業給付の充実は子育て家庭にとって恩恵となろう。

 一方で、その財源確保のために公的医療保険料に上乗せして徴収する「子ども・子育て支援金」について野党は政府と対立してきた。「実質的な増税だ」と批判する野党に対し、政府は賃上げと社会保障費の歳出削減によって上乗せ分は「相殺」されるので、実質的に負担増にはならないと説明してきた。

 しかし、物価高騰で実質賃金の目減りが続く中、どれほど賃上げの効果を期待できるだろうか。現時点で社会保障費の歳出削減について具体的に踏み込んだ説明があったわけでもない。国会審議を通じて政府は「実質負担ゼロ」を主張してきたが説得力には乏しく、財源論議を避けてきたと言わざるを得ない。

 「子ども・子育て支援金」について政府は引き続き国民に対し、丁寧に説明する必要がある。「実質負担ゼロ」の目算に狂いが生ずるような事態になれば、国政の場であらためて財源論議をやり直さなければならない。

 岸田文雄首相が掲げてきた「次元の異なる少子化対策」はこれから内実が問われることになる。少子化対策関連法に基づく諸施策によって少子化傾向に歯止めがかかるのか、その実効性が試されるのである。

 厚生労働省が5日発表した2023年の人口動態統計(概数)によると、出生数は過去最少の72万7277人で、23年の政府推計より11年も早いペースで減少している。合計特殊出生率は1.20で、データがある1947年以降の最低を更新した。

 出生数の急速な減少、出生率の低下は未婚・晩婚化が影響している。婚姻数は90年ぶりに50万組を割り、戦後最少となった。

 少子化対策は子育て支援に加え、未婚・晩婚化への対応が求められる。少子化対策関連法は子育て世帯への支援を盛り込んでいるが、結婚を望む若い世代への支援は十分ではない。手厚い支援によって、若い世代は安心して家庭を持ち、子をつくることができる。新たな支援策に向けた議論を急がなければならない。

 同時に、少子化対策は社会全体の改革が求められる。職場における働き方改革の推進、正規・非正規の処遇格差の是正などが重要なポイントとなろう。日本社会の衰微をいかに止めるか、国民的議論が求められている。