<社説>トルコ反乱鎮圧 分断と対立断つ統治体制を


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 欧州とアジアの懸け橋と称され、親日国で知られるトルコで軍の一部が反乱を起こした。鎮圧されたが、世界に与えた衝撃は大きい。

 トルコの首都アンカラや最大都市イスタンブールで軍の一部がクーデターを試み、一時「全権掌握」を宣言し、民主主義や法の支配の回復を図るとした。
 市街地を走る戦車や上空を飛ぶ戦闘機が警察施設などに攻撃を加えた。市民を含め死者は計265人に上った。
 どんな理由を並べ立てようが、軍部が武力を用い、民主的手続きで樹立された政権の転覆を図り、市民に銃弾を放つことは許されない。
 ここ数年、権限を強大化し、報道規制を強め、政権中枢を身内や側近で固めるなど、エルドアン大統領の強権的な統治手法への批判が強まっていた。権限を縮小された軍の一部に不満があり、反乱の要因になった可能性がある。
 反乱の背景を丁寧に解明し、政情の安定を急いでもらいたい。
 トルコは中東と欧州をつなぐ位置にある。世界に広がるテロや隣国シリアなどから増え続ける難民など、中東と欧州が抱える難題を解決に向かわせる上で、トルコが果たす役割は大きい。
 こうした局面で、トルコの深刻な政情不安が印象付けられた。「イスラム国」などの過激派勢力に付け入る隙を与えて中東情勢が悪化しないよう、国際社会は足並みをそろえて対処せねばならない。米国や欧州連合、日本などが政権を支持し、秩序回復を求めたことは当然だ。
 エルドアン大統領らは反乱鎮圧と実権掌握を誇示し、政権側は軍人と司法関係者ら約6千人を拘束した。エルドアン大統領は敵対する米在住のイスラム教穏健派指導者のギュレン師の関与を示唆し、米政府に強制送還を求めている。
 国内の批判勢力や少数派クルド人に対してより高圧的になり、「反乱勢力」の処罰が過剰になれば、将来の政情不安の根を残しかねない。エルドアン政権はそれを自覚し、対処すべきだ。
 トルコは政教分離の世俗主義を国是とするが、常にイスラム主義勢力と世俗派が対立してきた。時の政権がイスラム色を強めると、軍がクーデターを起こし、政治介入してきた歴史がある。だが、武力による反乱は時代錯誤だ。
 国内の分断と対立を融和に向かわせる統治体制の確立を望みたい。