<社説>トルコ非常事態宣言 強権やめ国民融和の道探れ


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 トルコのエルドアン大統領は今月中旬に起きたクーデター未遂を受けて、3カ月の非常事態を宣言した。在米のイスラム指導者ギュレン師を反乱の「黒幕」と見なし、同師の支持者を敵対勢力として軍と国家から完全に排除する狙いだ。

 大統領は宣言の目的について「テロ組織関係者を全て排除する」ことと「民主主義と法、自由の価値を守り強化する」ためだとしている。しかし実際は敵対勢力の一掃を図り、大統領の権限拡大を図ろうとしている。民主主義と法、自由の価値を守るというより、独裁的な色合いを深めているとしか思えない。
 すでにギュレン師との関係を疑われて、国家公務員だけでも約5万人が解雇され、軍高官や司法関係者ら約9千人も拘束されている。さらにテレビ・ラジオ24局の免許停止も決定した。反政府系の風刺週刊誌「レマン」が20日に出版予定だったクーデター特集号も出版を差し止められた。
 大統領は非常事態を宣言した演説で「ウイルスを一掃する」と断言している。非常事態宣言は自身にとって、都合の悪い人間や報道機関を排除するという弾圧にこそ主眼があるのではないか。
 トルコ憲法などの規定では、非常事態宣言によって、国民の権利や自由を制限することが可能となる。大統領主宰の閣議が議会承認を経ずに法令を出しても、違法性を問うことができない。まさに大統領の決定に誰も逆らうことができないのだ。
 エルドアン氏は2003年に首相に就任し、14年に大統領職に転じた。現在の議院内閣制から実権大統領制への移行を目指している。
 現時点の議会構成では、移行に向けた憲法改正は実現が難しい。しかしクーデター未遂後にエルドアン氏の支持は高まっている。さらに敵対勢力を一掃することで、実権大統領制導入の可能性が高まっている。
 少数民族クルド系野党の国民民主主義党は「独裁に向かおうとしている」と批判している。欧州など国際社会も懸念を示している。しかし大統領は「この決断を批判する権利はない」と主張し、聞く耳を持たない。
 国民の分断を深める強権的手法が正しいはずはない。大統領は一刻も早く、法と民主主義に基づく統治で秩序を取り戻すべきだ。国民融和の道を探り、国内の安定を図る努力をしてほしい。