<社説>自然史博物館構想 アジア網羅する研究拠点に


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 ヤンバルクイナ、イリオモテヤマネコ、ノグチゲラ…。沖縄だけにすむ固有種は数多い。希少種だけでなく、海に囲まれ、やんばるに代表される森を併せ持つ沖縄は、生物多様性の宝庫と称される。

 その沖縄に国立自然史博物館を設立しようという機運が高まりつつある。日本学術会議が今年5月に提言書をまとめ、17日には石垣市でシンポジウムが開かれた。シンポでは識者らが沖縄に設立する意義を語った。
 自然史博物館は展示だけでなく、(1)教育・研究機関としての人材育成(2)地球環境と将来の課題に対する理解を深める社会貢献(3)東アジア諸国との連携による国際貢献-の三本柱からなる。
 沖縄の自然にとどまらず、国内の自然史研究拠点として、さらにはアジアを網羅する国際的な研究・交流拠点の役割が期待される。
 提言書をまとめた岸本健雄・お茶の水女子大客員教授は「東アジア地域の自然史を研究するハブとして沖縄は最適の地」と断言している。構想が実現すれば、沖縄は研究・国際交流の拠点として新たな役割を見いだせる。アジア諸国に最も近い、地理的優位性を生かすのにふさわしいといえよう。
 自然史は多くの分野にまたがる。鉱物、地質、古生物、生態、進化などそれぞれの領域で利用可能な天然資源の発見、地球や生物の成り立ちの解明、環境破壊への対策などで人類に貢献してきた。
 だが未解明の部分も自然界にはまだ多く残されている。現在の技術では解明できないものでも、将来的に分析できる技術が開発される可能性はある。そのためにも標本を管理し、次代の研究者を育てる場が必要になってくる。
 さらには地球温暖化ガス削減に代表されるように、一国の対応だけでなく国際的な協力が必要とされる場面も増えている。こうした課題を克服するためにも、自然史博物館の設立が必要だ。
 課題は建設費350億円、年間運営費約70億円とされる巨額の財源だ。自然史博物館の意義を考えた場合、国が沖縄を「成長のけん引役」「アジアへの玄関口」と位置付けるのであれば、沖縄自立策の一環としてしっかり対応してもらいたい。
 「学術の万国津梁」を実現すれば、改めて沖縄は国際的な平和拠点として認知されるだろう。研究者間の議論にとどまらず、全県民的な関心の高まりを期待したい。