<社説>強制不妊に首相謝罪 国策による差別、猛省を


<社説>強制不妊に首相謝罪 国策による差別、猛省を
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 旧優生保護法によって不妊手術を強いられた被害者らに岸田文雄首相が謝罪した。旧法は憲法違反と認定した今月3日の最高裁判決を受けたものだ。被害者ら原告の初提訴から6年。障害者差別に該当する条文を削除した法改正から28年もの年月が経過し、ようやくの首相の謝罪である。

 訴訟を起こしていない人を含む全被害者救済への第一歩であり、政府・国会は実現に向けて直ちに動き出す必要がある。同時に国策として不妊手術を強制してきた過ちを厳しく問い直し、猛省すべきだ。

 最高裁は旧優生保護法が立法時から違憲だったと認定した。旧法は、不妊手術の強制の根拠となり、障害に対する差別の温床にもなってきた。国の責任は重大である。1996年の法改正後も国は被害者らに補償はしないとの立場だった。首相の謝罪の場で原告の一人が「国が非を認めないことで苦しめられた」と語った言葉はあまりに重い。

 一連の訴訟で、政府は不法行為から20年で損害賠償請求権が消える「除斥期間」を主張してきた。最高裁判決は「国を免責するのは著しく正義・公平に反する」として、除斥期間を適用しなかった。

 これを受けて首相は従来の主張を撤回し、手術を受けた本人だけでなく、配偶者も補償の対象とすると表明した。被害者にとっては前進ではある。ただ、国が責任を認めなかったこれまでの間、不条理な被害を訴えながら亡くなった被害者もいる。損害賠償請求権の消滅の主張を取り下げ、謝罪したことで国の責任が免ぜられるものではない。

 被害実態の解明、検証は不十分なままだ。補償政策だけではなく、旧法の立法過程、被害実態の検証のほか、国がその責任に向き合おうとしなかった経緯についても検証してもらいたい。

 旧優生保護法によって、障害のある人に対する差別意識が社会に広がった。これによって被害を名乗り出ることをより難しくした。被害者は約2万5千人とされるが、一時金支給法に申請したのは約1300人。申し出ることができなかった被害者をしっかり救済しなければならない。

 立法府にも責任はある。法制定は、人権保護への理解が今ほど十分ではなかった時代のことではある。ただ、議員立法によって「戦後最大の人権侵害」が引き起こされた事実は看過できない。障害に対する差別や偏見の根絶に向け、国会は政府と共に責任を果たしてもらいたい。

 国策による人権侵害を許し、優生思想をはびこらせた責任は、医療や福祉、メディアにも向けられよう。それぞれが自らの責任から目を背けることはできない。

 被害者は補償と謝罪だけでなく、差別の根絶に向けた立法措置や教育施策などを求めている。これらの要望の実現を、それぞれの立場で追求しなければならない。官民の連携を問い直す機会でもある。