<社説>ハリス氏後継指名へ 冷静な論戦を取り戻せ


<社説>ハリス氏後継指名へ 冷静な論戦を取り戻せ
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 冷静な論戦を取り戻し、根深い社会分断を克服する契機としてほしい。

 11月の米大統領選で再選を目指していた民主党のバイデン大統領が撤退を表明した。後継候補に推薦したハリス副大統領は民主党候補の指名獲得に必要な過半数の代議員からの支持を確保した。共和党候補のトランプ前大統領と争う民主党候補指名は確実な情勢である。

 バイデン氏には高齢による健康不安がつきまとっていた。6月下旬のテレビ討論会以降、党内で撤退を求める声が相次いだ。ニューヨーク・タイムズなど米主要メディアも撤退を主張し、バイデン氏は決断を迫られていた。この時期での撤退表明は賢明な判断だったと言えよう。

 ハリス氏はジャマイカ系の父とインド系の母の間に生まれ、2021年1月、米国初の女性、黒人、アジア系の副大統領に就任した。バイデン政権の中で多様性を受け入れる社会を目指す考えを体現するような存在だった。他方、この4年間で目立った実績はないとの厳しい評価もある。

 米国世論は突然の候補者交代をおおむね好意的に受け止めている。ロイター通信はハリス氏の支持率は44%で、トランプ氏を2ポイントリードしたと報じた。バイデン氏撤退とハリス氏出馬は「理にかなった判断だったことが明確になった」と指摘している。民主党に対し多額の献金が集まっているとの報道もある。

 11月の大統領選に向けて求められるのは冷静で建設的な政策論争である。バイデン氏の撤退前から民主党、共和党の間で激しい中傷合戦が続いてきた。特にトランプ氏はバイデン氏を「衰弱した老いぼれ」などと罵倒し、ハリス氏も中傷するなど敵意をあらわにしてきた。このような誹謗(ひぼう)中傷を排し、健全な論戦に徹しなければならない。

 「アメリカファースト」を掲げるトランプ氏の登場以来、米国社会の分断が進んだ。トランプ氏は2020年の前回大統領選の結果を受け入れず「不正」と訴え、米議会襲撃事件では支持者を扇動したとされる。

 この時生じた米社会の亀裂は現在も克服されたとは言えない。社会分断が今後も続くのか、それとも融和の方向へ向かうのか、今回の大統領選挙が試金石となろう。

 日本も大統領選の行方を注視しなければならない。選挙戦で掲げる両候補の外交・防衛姿勢は私たち沖縄にも影響を及ぼす可能性がある。とりわけ中国に対する姿勢、中台関係へのスタンスは在沖米軍基地の動向を左右する。玉城デニー県政も重大な関心を持って臨んでほしい。

 沖縄から求めるのは、アジア太平洋地域の緊張緩和に資するような外交姿勢だ。中国の覇権的な動きに対し、米国も覇権的な態度で応じては緊張を高めるだけだ。大統領選の結果は沖縄の平和と安定にも直結するのである。