<社説>核先制不使用反対 被爆国の世論に背く 首相は説明責任を果たせ


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 これが唯一の核被爆国日本の首相の発言だろうか。米オバマ大統領が提唱する核兵器の先制不使用政策に対し、安倍晋三首相が「北朝鮮に対する抑止力が弱体化する」として反対する意向を米太平洋軍司令官に伝えたとする記事が、米ワシントン・ポスト紙に載った。

 被爆国として核廃絶を願う国民世論を裏切る発言だ。広島、長崎の被爆者は即座に「被爆地の思いに逆行する」と反発した。県内からも「被爆国の立場を忘れ、核戦争を推進する発言」などとする非難が沸き起こったのも当然だ。
 
いたずらに北朝鮮刺激

 オバマ政権が検討する「核先制不使用」政策は、「核攻撃を受けない限り核兵器を使用しない」と宣言するもので、核兵器廃絶への大きな一歩となるものと国際社会が期待している。しかし米軍、米国議会内に「核抑止力」の後退につながると反対論が根強く、実現が危ぶまれている。
 5月に広島を訪ねたオバマ氏は「米国を含む核保有国は勇気を持って核廃絶を追い求めなければならない」と決意を述べた。広島、長崎両市長はオバマ氏に「核兵器の先制不使用宣言の実現を求める書簡」を送り、大きな期待を寄せた。
 安倍首相は本来、被爆国の首相として「核先制不使用」政策を後押しすべき立場だ。これに反対することは核廃絶を願う国内、国際世論に背を向けるものだ。
 安倍首相が北朝鮮を名指しし、核先制不使用に反対したことも大きな問題だ。
 核開発、ミサイル実験を繰り返す北朝鮮に各国が反対し自制を求めるのは当然だ。一方で北朝鮮が米国に「敵視政策」の見直しと「平和協定の締結」を長年求めていることに米国は積極的に対応せず、日本政府も「対話路線」の仲介や後押しを怠っている。
 首相発言は、北朝鮮を念頭に核先制使用の政策維持を米国に求める発言と受け取られかねない。いたずらに北朝鮮を刺激し、かえって核開発やミサイル実験、紛争に至るリスクを高める懸念がある。
 日本政府は米国の「核の傘」に依存し「核抑止力」支持の方針を変えていない。
 そればかりか戦後の自民党首相は「自衛のための核保有」(岸信介氏)、「必要最小限の自衛のためであれば持ちうる」(福田赳夫氏)と現憲法下での核兵器保有も可能とする見解を示してきた。
 米国の核の傘に依存しつつ、日本復帰前の沖縄への大量核配備を、政府は容認し続けた。 

戦略強化、保有の疑念も

 米ソが核兵器競争を繰り広げた冷戦下だけの話ではない。
 今年3月、内閣法制局長官が「憲法上あらゆる種類の核兵器の使用が禁止されてはいない」と国会で発言。4月には「憲法9条は一切の核兵器保有と使用を禁止するものではない」との答弁書を閣議決定した。安保関連法は審議過程で「自衛隊による核弾頭の輸送も可能」と説明された。
 稲田朋美防衛相は以前、「将来的核兵器保有の可能性を検討すべきだ」と発言。安倍首相は「核兵器の保有はあり得ない」と否定したが、安倍首相自身、かつて「日本も小型であれば原子爆弾を保有することに問題はない」と発言したことが報道されている。
 安倍首相、閣僚の個々の発言、法制局長官発言、閣議決定、安保関連法の内容からすると、安倍政権は米軍と一体となった核戦略強化の姿勢を強めてはいないか。将来、日本が核兵器を保有する疑念すら抱かざるを得ない。
 復帰後も、沖縄への有事の際の核持ち込み密約が明らかになった。キューバ危機の1962年、米軍内でソ連などを標的とする誤った核攻撃命令が出され、読谷村の発射基地の現場指揮官の判断で発射が寸前に回避された。
 沖縄は米軍核戦略の影響を直接に受ける。安倍首相は「核先制不使用」政策に対する見解を国民、県民に明らかにする責任がある。