<社説>個人情報収集違憲 「市民危険視」が裁かれた


<社説>個人情報収集違憲 「市民危険視」が裁かれた
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 市民のプライバシーを侵害する捜査活動に厳しい司法判断が下された。市民を危険視、敵視する姿勢が裁かれたのである。警察は深く反省すべきだ。

 岐阜県の風力発電事業に関する勉強会を開いた住民らの個人情報を岐阜県警が収集し、事業者側に提供したのは違法として、住民4人が県に情報の抹消などを求めた訴訟の判決で、名古屋高裁は情報収集の違憲性、違法性を指摘して一審判決を変更し、一部の抹消を命じた。

 判決によると、岐阜県警は2013年から14年にかけて4人の情報を収集し、事業者との情報交換の際、4人の氏名や学歴などを伝えたという。

 22年2月の一審岐阜地裁判決は「情報提供は正当な理由に基づくものとは言えない」として違法と判断したが、情報収集の必要性は認め、適法とした。それに対し高裁判決は「情報収集が警察官の裁量権を逸脱しておりプライバシーを侵害した」とし、情報収集そのものを違法とした。

 違法とされた情報収集活動は風力発電事業に対する住民運動への事業者や県警の警戒感が背景にあるのだろう。

 判決が「捜査機関が『公共の安全と秩序の維持』を名目にフリーハンドで活動することは許されない」と述べるように、無制限に市民の行動を監視し、情報を集める行為は憲法に照らして許されるものではない。岐阜県警は自戒しなければならない。

 判決は市民運動を危険視、敵視する捜査機関の姿勢を厳しくいさめた点で画期的だと言えよう。「市民運動やその萌芽(ほうが)の段階にあるものを際限なく危険視して情報収集し、監視を続けることが憲法による集会、結社、表現の自由の保障に反することは明らか」とし、明快に憲法21条違反を指弾した。

 この判決は、普天間飛行場返還に伴う辺野古新基地建設に反対する粘り強い反対運動が続いている沖縄でも重要な意味を持つであろう。国策に異議を申し立てる住民運動を抑圧したり、運動が広がる前に芽を摘んだりする捜査の違憲性を明示したのである。

 これは岐阜県警や岐阜県庁だけの問題ではない。国益や公益性を帯びた事業と地域住民が対峙(たいじ)しているとき、警察は住民を過剰に監視し抑圧する行動をしてはならない。判決は全国の警察など捜査機関に警鐘を鳴らしたと言える。

 判決は、捜査機関による情報収集活動の対象を明確にした法律がないことや、情報収集活動を監視・監督する独立した第三者機関が存在しないことを批判した。現在、市民に対する警察の情報収集活動の妥当性を法に基づいて判断する独立した組織がないのである。

 岐阜県警の情報収集活動の違法、違憲性が指摘された以上、この状態を放置してはならない。政府、国会の場で憲法にのっとり違法な情報収集を防ぐ措置について議論する必要がある。