<社説>違法薬物摘発急増 治療環境整備も不可欠だ


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 違法薬物の摘発が県内で急増している。ことし7月末時点で58人が大麻取締法違反で摘発され、過去10年で最多だった2015年を既に上回る由々しき事態である。大麻や覚醒剤、指定薬物などを含めた薬物事犯総摘発数も114人と、前年同期の85人を大きく上回っている。

 これまでにないペースで摘発が増えており、違法薬物のまん延が危惧される。薬物乱用に歯止めをかける取り組みを、社会全体でさらに強化する必要がある。
 違法薬物の密輸入事犯も多発傾向にある。5月には那覇港に停泊中のマレーシア船籍のヨットから国内過去最大量の約600キロの覚醒剤が押収された。四方を海に囲まれた沖縄が違法薬物の中継基地として狙われている可能性がある。関係機関には違法薬物持ち込みを水際で防止する努力をさらに求めたい。
 ことし1月には高校生が大麻所持で逮捕された。青少年が容易に違法薬物を入手できる可能性がある。地域社会も危機感を共有し、違法薬物根絶を図る意識を強く持ちたい。
 県警暴力団対策課のまとめによると、大麻取締法違反での摘発数は13年24人、14年41人、15年57人と年々増えている。背景には危険ドラッグの取り締まりが厳しくなったことで、薬物依存者が大麻などに回帰する動きが強まっているとの見方がある。
 県警は対策として(1)密売人、暴力団の取り締まりなどによる薬物供給網の遮断(2)乱用者の取り締まりなどによる薬物需要の根絶(3)学校での薬物乱用防止教室など広報啓発活動(4)関係機関との緊密な連携-を掲げている。いずれも重要な事項であり、強力な取り組みを求めたい。
 併せて薬物依存の治療環境整備も不可欠だ。いったん薬物依存に陥ると、やめることが困難になる。内閣府の全国調査によると、13年の覚醒剤事犯における再犯者率は62・8%に上る。懲罰を受けても、大きな効果を上げているとは到底言えない。
 薬物依存者の回復を積極的に支援することで、再犯者率の低下が期待される。4月に開かれた国連麻薬特別総会では「薬物使用者の人権や健康に配慮した政策」の推進を打ち出している。国を挙げて薬物依存治療体制の確立に乗り出すべきである。