<社説>高江派遣事前指示 警察の本分をわきまえよ


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 思想信条の自由に基づき基地機能の強化に抗(あらが)う市民を、力で組み敷く警備の内実がくっきりした。

 首相官邸から市民排除を促す何らかの指示が発せられたのか。警察組織を束ねる警察庁が政権の思惑を忖度(そんたく)したのか。いずれにしても、強権性を色濃くしている安倍政権の意思が反映していよう。
 米軍北部訓練場のヘリパッド建設に伴う県外の機動隊派遣を巡り、沖縄県公安委員会が東村高江の現場への派遣を要請する前に、警察庁が実質的な派遣を指示していたことが分かった。
 警察庁警備課長が7月11日付で機動隊を応援派遣する警視庁の総監や5府県警の本部長などに宛て、万全な派遣態勢を取るように促していた。警察組織内では実質的な業務指示と見ていい。
 問題は日付だ。県公安委が派遣要請を決定したのは翌12日だった。委員長と2人の公安委員が署名押印して決裁された。県公安委の要請に基づく派遣どころか、実際は国が主導して決めていたという疑念が浮かぶ。
 沖縄の公安委員が関与する前に、警察組織内部で派遣態勢を詰めていたわけだ。応援部隊の経費が県民の税金から拠出されている問題も判明している。
 政治的に中立を貫き、民主的な運営に目を光らせる県公安委の監督機能、公正な審議が骨抜きになっていないか。重大な疑念を抱かざるを得ない。9月定例県議会で池田克史県警本部長と県公安委員長は見解を示すべきだ。
 警察側は沖縄サミットや天皇来県時の警備と同様な対応と説明しているが、基地機能強化に抗う市民とのせめぎ合いが予想されていた高江とは全く様相を異にする。
 応援の機動隊員の総数は500人余に上る。これは、2014年に、暴力団排除運動の先頭に立つ市民を襲撃した指定暴力団工藤会(北九州市)の「制圧作戦」に投入された規模に匹敵する。暴力団を抑え込むのと同規模の隊員が、市民排除に投入されるのは異常極まりない。
 身体の自由を奪うごぼう抜きや「人間監獄」とも称される囲い込みが頻繁にある。翁長雄志知事が「過剰警備であることは間違いない」と批判するのは当然だ。
 警察の本分は権力の先兵となって苛烈(かれつ)な警備を敷くことではないはずだ。誰のために、何のために警察はあるのか。民意と懸け離れた警備が厳しく問われる。