<社説>上与那原選手4位 渾身のレースに拍手を送る


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 力の限り、タイヤを押し込む上与那原寛和選手(SMBC日興証券)は、まっすぐ前を見詰めてゴールした。15日に行われたリオデジャネイロ・パラリンピックの車いす陸上(T52)1500メートル決勝。タイヤ半分ほどの差だろうか。上与那原選手は3位の選手と0・08秒差の4位という結果に「力を出し切ることができた。悔しさはない」と語った。

 メダルには届かなかったものの、世界の舞台で持てる力を全て発揮した。45歳のベテランが見せた渾身(こんしん)のレースに拍手を送る。今大会は出場3種目のうち、400メートル、1500メートルの2種目で入賞した。目標に向かって力を振り絞った上与那原選手の奮闘を県民として誇りに思う。
 活躍の裏には多くの人の支えがある。競技に専念する環境を整えてくれた家族や後援会、企業などだ。さらには車いす陸上を通して出会った恩師や仲間たちがいる。こうした人々の応援が上与那原選手を後押しした。
 1500メートル決勝の白熱した3位争いは、リオのオリンピックスタジアムでも大会記録を出した優勝争いより注目を集め、ひときわ大きな拍手が沸いたという。
 スポーツの魅力は真剣勝負から生まれる緊張感と、わずかな差が勝敗を分ける力と力のぶつかり合いにある。そうした試合に心を揺さぶられた観客の拍手は、必ずしも勝者だけに送られるものではない。敗れたとしても力を尽くした競技者は同じようにたたえられる。その意味で上与那原選手は、観客に強い印象を残したのだろう。メダルは手に入らなかったが、レース内容は充実していた。
 上与那原選手と同じカテゴリーでは、ロンドン大会で四つの金メダルを獲得した米国のレイモンド・マーティン選手が今回も100メートルで銀、400メートル、1500メートルで金と圧倒的な実力を見せた。マーティン選手らの姿に刺激され、競技を始めた佐藤友祈選手も二つの銀を得た。両選手は共に20代で、2020年東京大会でもよきライバルとなるだろう。
 上与那原、マーティン、佐藤の3選手をはじめ、憧れとなるトップ選手がいることは競技の底上げにつながる。上与那原選手に続こうと、車いす陸上に打ち込む県内若手選手には大きな目標ができたはずだ。さらなる高みを目指して、ベテランと若手が切磋琢磨(せっさたくま)し、沖縄から東京大会を目指してほしい。