自衛隊と戦前の日本軍は全く別の組織であり、両者の連続性は否定されなければならない。日本軍の論理を用いて現在の自衛隊を県民、国民向けに称揚することは断じて許されない。
第32軍の牛島満司令官の「辞世の句」を公式ホームページ(HP)に掲載していた陸上自衛隊第15旅団は、HPリニューアルの作業を進めている。現時点で「辞世の句」は読めなくなっている。
陸自HPへの「辞世の句」掲載は日本軍と自衛隊を同一視するようなものとして批判の声が上がっていた。今回の措置について、15旅団は「批判を受けたからではなくホームページリニューアルのため」と説明している。
リニューアル後の扱いについて15旅団は明言を避けているが、日本軍と自衛隊の連続性を絶つためにも再掲載をしてはならない。日本軍と自衛隊の間には敗戦と日本国憲法があり、両者を峻別(しゅんべつ)しているのである。
「辞世の句」は15旅団の沿革を紹介するページに掲載されていた。1972年5月の日本復帰時における臨時第1混成群長の桑江良逢氏の訓示と共に紹介していた。
「辞世の句」は沖縄戦が最終局面に入った1945年6月18日、牛島司令官の「決別電」と合わせて河辺虎四郎参謀次長ら陸軍首脳に向けて発せられた。HPに掲載されていた「秋待たで 枯れ行く島の 青草は 皇国の春に 甦らなむ」は戦場となった島が「皇国」の下でよみがえることを願う内容である。「決別電」には沖縄戦での敗退を天皇にわびる文言がある。
憲法が否定する「皇軍の論理」に貫かれた「辞世の句」を自衛隊の広報・宣伝手段の一つである公式HPに掲載することは憲法の平和主義に反するものだ。自衛隊の行為が重大な問題を含むことを認識すべきであった。
特に沖縄においては、第32軍司令部が、本土決戦までの時間稼ぎを優先した「戦略持久戦」によって多くの県民の命が失われたのである。その最高責任者である牛島司令官の句を自衛隊が広報手段に用いることを県民は受け入れないであろう。
今年1月には陸上自衛隊幹部ら数十人が靖国神社を集団参拝した。陸自第32普通科連隊が、活動内容などを紹介する公式X(旧ツイッター)で、「大東亜戦争」という言葉を使って投稿していた。これらの動きも日本軍との連続性を印象づけるもので、平和憲法の精神にそぐわない。
最終的に公式HPから「辞世の句」を削除したとしても問題は終わるわけではない。
15旅団はHPリニューアルを告知する文書で「第15旅団の様々な活動は、地元の皆様のご理解が不可欠です」と記した。ならば、削除するだけでなく沖縄戦における日本軍の行動を検証し、反省とともにその連続性を絶つ姿勢を県民に示すべきである。