自民党派閥裏金事件に関与して離党、衆院選に無所属で出馬し当選した世耕弘成氏ら計6人が、衆院会派「自民党・無所属の会」に入会した。衆院選で政権与党が過半数割れし、特別国会の首相指名選挙に向けた多数派工作の一環として自民党が会派入りを打診したという。
石破茂首相は「厳しい姿勢で臨み、ルールを守る自民党を確立する」と表明し、裏金に関わった議員の一部を衆院選で非公認にする措置をとったのではなかったか。選挙が終わった途端に無所属の裏金議員を呼び戻すのでは、有権者を欺くためのポーズだったと非難されても仕方がない。
無所属で立候補した議員が当選したことで裏金問題の「みそぎ」が済んだとするならば都合のよすぎる解釈だ。衆院選で有権者が示した「政治とカネ」の問題を厳しく批判する民意を、政治が無視するようなものだ。
裏金問題の究明と責任追及は不十分で、抜け道が多い政治資金規正法の再改正が衆院選の争点として持ち上がった。非公認候補が代表を務める自民党支部に党本部から2千万円の活動費を支給した問題についても、石破首相は正面から答えていない。
派閥裏金事件をはじめとした逆風で過半数割れに追い込まれた自民党が反省を示さず、このまま数合わせの政局にひた走ることを国民の多くは認めないだろう。有権者の政治不信は、民主主義の土台を揺るがしかねないほどに増幅していることを石破首相は心すべきだ。
自民の多数派形成に向けた動きでは、無所属議員の取り込みに加え、国民民主と政策協議の開始に合意するなど、「部分連合」の形で一部の野党を引き込もうという綱引きが活発化している。
政党間の活発な議論の下で、国民のためになる政策を練り上げていくことは議会政治の本来あるべき姿だ。
安倍晋三政権以降、憲法に抵触する集団的自衛権行使を容認する憲法解釈変更を閣議決定で行うなど、政権与党の安定多数に物を言わせ、国会手続きを軽視するような政治が続いた。少数与党となった政権党が法案を通すため野党と真摯(しんし)に向き合い、政策ごとに協議を進める姿勢を示すこと自体は歓迎していい。
しかし、選挙後早々に裏金議員を会派入りさせる無節操な多数派工作を見る限り、本当に熟議の国会に向かうか疑念を持たざるを得ない。
キャスチングボートを握る国民民主は、年収が103万円を超えると所得税が発生する「年収の壁」の上限引き上げを実現することを重視し、与党との協議に積極的に応じる姿勢を見せている。一方で野党の中には国民が与党側に軸足を置くことで、自公政権の延命にくみすることになると警戒する見方もある。
国政の主導権争いや政策協議の行方を有権者もしっかりと監視していく必要がある。