<社説>鹿児島銀進出1年 金利競争より企業支援を


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 経済を人に例えるなら、市中を巡るお金が血液で、血液を送り出す心臓が銀行といえる。末端の筋肉や神経に当たる企業が適切に活動するには心臓が大きな役割を果たす。

 県内地方銀行は激動の時代に入った。日銀のマイナス金利政策など多くの要因はあるが、戦後初めて県外地銀として沖縄に進出した鹿児島銀行(鹿銀)の影響もあろう。
 鹿銀が沖縄支店を開設し、9月28日で1年となった。この間、住宅ローンを中心に個人融資は約230件、総額60億円余を実行した。住宅ローンで1%を下回る低金利が借り換えを促し、県内地銀の金利も押し下げる形になった。
 日本全体で人口が減少する中、沖縄は2015年国勢調査の速報値で人口上昇率が最大の3・0%となっており、住宅投資や店舗開発も活発だ。県内で競争が起きたことは融資を受ける側にすれば歓迎すべき動きだ。
 一方で低金利競争は利ざやの縮小につながり、銀行の体力を奪いかねない。金利面での過度な競争は避けるべきだ。
 県内地銀もこうした状況に手をこまねいているわけではなく、銀行本来の役割である地域経済の先導者として活路を見いだそうとしている。県銀行協会会長の玉城義昭沖銀頭取は本紙のインタビューで「資産形成の部分や事業再生、事業承継など『非』金利面での価値を認めてもらう部分で競争すべきだ」と述べている。
 鹿銀も出店に当たっては、地元鹿児島の産品を県外、アジアへと販路を広げる目的があった。
 那覇空港を拠点とした全日空の国際貨物ハブ事業をはじめ、アジアの玄関口である沖縄にはそうした条件が整っている。鹿銀進出という刺激をきっかけに、県内企業のマッチングや育成、国内外進出への支援といった部分での競争がさらに進展するのは確実だろう。
 地方創生の時代といわれ、地方銀行の役割はますます増している。中小企業を中心とする751社に金融庁が行った調査では、メインバンクに求めることは「金利」が146社なのに対し「社や事業に対する理解」が429社と圧倒している。
 企業が銀行に求めるのは、単に金を貸してくれることではない。共に事業を発展させるパートナーこそ必要とされているのだ。銀行本来の底力で競争する時代が到来することを期待したい。