<社説>大隅氏にノーベル賞 治療法確立に道開く偉業


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 大隅良典・東京工業大栄誉教授が今年のノーベル医学生理学賞の受賞者に決まった。

 科学分野でのノーベル賞単独受賞はハードルが極めて高いとされる。医学生理学賞の日本人単独受賞は1987年の利根川進氏以来、29年ぶりである。大隅氏の功績をたたえ、受賞決定を喜びたい。
 人間の体は約60兆個もの細胞からできており、絶えず新しい細胞に生まれ変わっている。大隅氏は、細胞の生まれ変わりの過程に関係する「オートファジー(自食作用)」の仕組みを解明した。
 細胞が自らの不要なタンパク質を分解してリサイクルするオートファジーが機能しなければ、細胞内に異常なタンパク質などのごみや老廃物がたまり、病気につながる。大隅氏は生命を維持する根本的な仕組みの解明に加え、オートファジーに関わるさまざまな遺伝子を見つけた。人類の病気との闘いを前進させ、治療法確立に道を開く偉業である。
 大隅氏の研究をきっかけに、病気治療に向けた研究が世界中で盛んになってきた。オートファジーに関する論文は年間5千本も発表されると言われるほどである。
 病気の原因解明が進めば、治療法確立の可能性が高まる。がんやパーキンソン病など、さまざまな病気に苦しむ患者や関係者の期待も大きい。大隅氏の研究成果を実用化するため、製薬企業も参加して研究にしのぎを削る状況を歓迎したい。
 大隈氏が取り組んできたのは、特別な応用や用途を直接考慮することなく追究する「基礎研究」である。大隅氏は受賞会見で「研究を始めた時は、オートファジーが人間寿命の問題につながるとは確信していなかった。基礎的研究はそういうふうに広がるという重要性を強調したい」と述べている。
 だが、国立大学の法人化以降、国の研究助成は短期間で結果が出る研究に優先配分されている。
 大隅氏はこうも述べている。「科学が『役に立つ』という言葉が社会を駄目にしている。本当に役立つのは100年後かもしれない。将来を見据え、科学を一つの文化として認めてくれる社会にならないかと強く願っている」
 実用研究も大切だが、将来を見据えた基礎研究も軽んじてはならない。国だけでなく、国民も大隅氏の言葉を重く受け止めたい。