<社説>陽茉莉ちゃん募金達成 国内移植へ体制整備を


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 重い心臓病「拡張型心筋症」を患う1歳9カ月の森川陽茉莉(ひまり)ちゃんの渡米を支援する募金が2億9500万円の目標額を上回った。多くの県民の善意が目標達成につながった。陽茉莉ちゃんは25日に渡米する。手術の成功を願う。

 渡航移植の背景には、国内では脳死による臓器移植が圧倒的に不足している現状がある。特に子どもの移植は少ない。小さな命をより多く救うために国内体制を強化しなければならない。
 2010年の改正移植法施行により、家族の承諾で15歳未満も臓器提供できるようになった。国内で移植手術を受けようとすれば、保険適用などで費用はある程度軽減される。しかし、国内ではドナー不足という大きな課題がある。
 日本臓器移植ネットワーク(移植ネット)によると、米国は「脳死は人の死」とされているため、年間8千人もの脳死後の臓器提供者がいる。だが日本は臓器提供について国民の理解が深まっていない。
 移植ネットによると、01年の法改正後、現在まで15歳未満の臓器提供者は12人だ。国内で心臓移植を受けた10歳未満の子どもは4人しかいない。一方、移植ネットに登録して国内での心臓移植を待つ子どもは9月末現在、10歳未満だけでも19人いる。
 このため家族は、重い負担を覚悟で渡航移植を決断せざるを得ない。手術代や渡航費などの移植費用は2億~3億円前後と高額で、一般家庭では支払えない額だ。01年以降、海外で移植手術を必要とし、県民の善意で実現したのは陽茉莉ちゃんで5人目となる。
 国際移植学会は08年、自国での移植を促す「イスタンブール宣言」を発表し、欧州では渡航移植をほとんど受け入れなくなった。米国でも受け入れ枠は狭まりつつあり、こうした情勢も費用高騰の一因とされる。同宣言を日本も支持しているので、国内移植環境を早急に整備しなければならないはずだ。
 具体的には医療システムの整備、ドナーコーディネーター不足の解消、脳死と判定された子どもの家族へのケア、臓器移植を理解する教育、啓発活動などを通じて、国内で提供数を増やす取り組みが必要だろう。
 県外には心臓移植を待ちながら脳死となり、逆に臓器を提供した6歳未満の女児もいる。国内対策は一刻を争う。