<社説>大川小津波訴訟 万全の備えで児童を守れ


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 「先生の言うことを聞いていたのに」という原告遺族の悲痛な訴えを認めた判決だ。児童の命を守る教員の重責を再確認し、重大な自然災害への備えを固めたい。

 東日本大震災の津波で犠牲となった宮城県石巻市立大川小学校の児童の遺族が損害賠償を求めた訴訟で、仙台地裁は学校側の過失を認定し、約14億円余の支払いを県と市に命じた。
 学校側が津波の襲来を予見できたか、児童を安全な場所に避難させることができたかが、裁判の重要な争点となった。
 判決は広報車による避難呼び掛けを教員が聞いた時点で津波の襲来を予見できた上、助かった可能性が高い裏山を避難先に選ばなかった過失があると指摘した。
 生命に関わる自然災害で自ら判断することが難しい児童を安全な場所に誘導しなかった学校側の責任を厳しく指摘した。津波が襲った学校が岩手、宮城、福島3県で約70校あったことを踏まえ、津波襲来は予見できなかったとする市の主張は退けられた。
 東日本大震災のような極限状態で、児童の生命を守る学校、教職員の責務を求めた判決は学校現場に重い課題を突き付けた。判決から学ぶべきことは多い。大災害への備えを怠ってはならない。
 元日大教授の橋本恭宏氏(民法、教育法)は宮城県の沿岸地域に津波被害の長い歴史があることを踏まえ「教訓から学び、いざというときに児童をいかに安全に避難させるかという真剣な議論が欠けていた。他の学校も人ごとではなく、判決を機に防災態勢を見直すべきだ」と指摘している。
 東日本大震災以降、防災地図や防災マニュアルの作成が全国の自治体で進んでいる。地震や津波を想定し、民間の建築物を避難場所に指定する動きも広まった。学校単位でもやるべきことは多い。
 大規模災害の発生時、教職員はどう行動し、安全な場所へ児童を導くかという行動指針を確立すべきだ。さまざまな災害に対応できる柔軟な発想ときめ細かな議論を重ねたい。
 本県の場合、自然災害のみならず、米軍基地から派生する重大事故への対応も必要だ。宮森小ジェット機墜落事故の悲しい経験を過去の出来事にとどめてはならない。
 児童の命が失われる事態は「想定外だった」と釈明しても遺族は納得しない。悲しい犠牲を繰り返さぬためにも備えを万全にしたい。