<社説>物価2%先送り 日銀頼みから政策転換せよ


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 黒田東彦日銀総裁にとって事実上の敗北宣言だ。

 日銀は2%の物価上昇目標の達成時期を2018年度ごろへ後退させた。黒田総裁の下で大規模な金融緩和に乗り出してから5度目の先送りであり、黒田氏の任期中での達成を諦めることになる。
 もはや金融政策だけで物価を上げられないことは明らかだ。アベノミクスの第一の矢として注目を集めた「量的・質的金融緩和」は完全に行き詰まった。安倍政権は速やかに日銀頼みの経済政策を転換すべきである。
 日銀は13年4月に「2年で2%の物価上昇」という目標を掲げ、「バズーカ」と呼ばれる大規模な金融緩和に踏み切った。市場の予想を上回る「サプライズ」で、市場参加者の心理に働き掛け、一気にデフレ脱却を目指した。しかし、異次元緩和の効果は2年程度で減衰した。
 日銀は今年1月、日本では初となる「マイナス金利」の導入を決めた。世の中により多くのお金が出回るようにして景気を底上げする金融緩和の一環で、欧州中央銀行(ECB)などで導入されている。極めて異例の政策であり、今や金利が下がりすぎて金融機関の収益を圧迫し、年金や保険の運用にも悪影響が出ている。
 あの手この手の金融政策を打ち出してきたが、9月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)は前年同月比0・5%下落の99・6で、7カ月連続のマイナスだ。日銀が目指す物価2%上昇と懸け離れた状況が続いている。
 日銀は目標を達成できない理由として、金融政策の誤りではなく、原油価格の下落や消費税増税後の消費の落ち込み、新興国経済の減速のせいにした。責任転嫁である。
 アベノミクスは大胆な金融緩和と機動的な財政政策で景気を刺激して、その間に第三の矢である成長戦略に取り組むはずだった。しかし、第三の矢の効果は数字に表れていない。そして新三本の矢は具体性に乏しい。
 日本は高所得者と低所得者の二極分化が進んでいる。世帯ごとの所得の格差が13年に過去最大となった。格差は経済成長率を押し下げる。個人消費を増やすには格差是正が急務である。低所得層の税や社会保障の負担軽減、「同一労働同一賃金」の実現、非正規労働者の正社員化などを通じて物価上昇を後押しする政策が必要だ。