<社説>米大統領にトランプ氏 辺野古新基地断念せよ 知事は直ちに訪米すべきだ


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 米大統領選挙は共和党のドナルド・トランプ氏が民主党のヒラリー・クリントン氏との接戦を制し勝利した。

 民主党政権から、経済の保護主義が強い共和党トランプ政権に転じた後、日米の貿易、通商など、さまざまな経済政策が見直される可能性がある。
 トランプ氏は「米軍の日本駐留費の負担増」を主張していた。新大統領に訴えたい。沖縄県民は71年間、米軍基地の負担を強いられてきた。もはや限界である。普天間飛行場の県内移設や北部訓練場でのヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)建設の断念を強く求める。

 対沖縄政策見直しを

 トランプ氏は「米国第一主義」を掲げ過激な主張や女性蔑視発言、セクハラ疑惑などで国内に深い亀裂を残した。しかし既存の政治が米国の衰退を招いたと感じる有権者の間で着実に支持を広げ、最終盤で逆転した。
 米軍普天間飛行場の県内移設や北部訓練場へのヘリパッド建設は、クリントン候補の夫ビル・クリントン大統領時代に方向付けられた。米国の軍事世界戦略で沖縄は、アジア太平洋を重視するリバランス政策の重要拠点に位置付けられている。
 辺野古新基地について、ヒラリー氏は国務長官時代に「普天間飛行場の代替施設建設を含む沖縄の米軍再編の進展に自信を持っている」と断言した。日本に埋め立て申請を含む作業を早期に進めるよう要求するなど、現行計画による普天間問題解決へ強い意向を示した。クリントン氏勝利なら政策は継続された可能性が高かった。
 「米国第一主義」を宣言するトランプ氏は討論会で「私たちは日本を防衛し、ドイツを防衛し、韓国を防衛し、サウジアラビアを防衛し、他国を防衛している。もし彼らが相応の負担をしないのなら、守ることはできなくなる」とし、日本や北大西洋条約機構(NATO)諸国に対し、同盟国側の防衛費の負担増を要求した。在日米軍を撤退させるとの考えを示したほか、安保条約の見直しにも言及した。
 トランプ氏が次期大統領に就任した後、在日米軍の駐留経費のほか、米国内にも不満が残る在沖米軍のグアムなどへの移転経費などにも、影響を及ぼす可能性がある。日本政府は負担要求にどう応えるのか。
 政権交代は日本の国土面積の0・6%に74・46%の米軍専用施設が集中する沖縄にとって現状を変更する好機である。

 米国の分断危惧

 トランプ氏の辺野古新基地建設への対応は未知数だ。米有力シンクタンクのアジア専門家は「辺野古移設について、トランプは全くの『白紙』状態だ。今後、判断していくことになるだろう」と指摘している。
 それならば、翁長雄志知事は早期に米国を訪れ、政権交代前、新政権の対沖縄政策が固まる前に、辺野古新基地建設の断念を求めるべきだ。
 一方、トランプ氏はオバマ政権がアジア重視戦略の要と位置付けた環太平洋連携協定(TPP)に反対を表明している。発効の条件である米国議会の承認も得られるのか不透明だ。与党はTPPの承認案と関連法案に関し、10日の衆院通過を目指すが、急ぐ必要はない。TPPへの疑問や懸念は払拭(ふっしょく)されていない。この際、再交渉も視野に入れるべきだ。
 移民政策でトランプ氏は、メキシコとの国境に「壁を建設する」との強硬姿勢を崩さない。イスラム教徒にはテロリストが交じっている可能性があるとして、厳格な入国審査が必要だと主張している。米国の分断を危惧する。
 今回の大統領選挙は個人攻撃が激しく「史上最低の大統領選」と酷評された。トランプ氏は選挙集会で具体的な政策を語らなかった。格差社会を背景に改革を求める有権者の声に応える政策を早急に提示する責任がある。