<社説>安倍トランプ会談 辺野古見直す柔軟性持て


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 安倍晋三首相がトランプ次期米大統領と初めて会談した。当選からわずか10日後、就任前のトランプ氏をニューヨークの自宅に訪ねる異例ずくめの顔合わせだった。

 会談後、安倍首相は「信頼関係を築く確信を持てる会談だった」と述べ、トランプ氏も「友好関係を始めることができた」と応じた。
 双方が表向きの「信頼関係」構築をアピールしたものの、外交は出発点に立ったにすぎない。安倍首相は日米の安全保障関係や自由貿易の重要性を伝えたようだが、トランプ氏側の返答は明らかになっていない。
 トランプ氏当選を受けて、日米両国間に漂う不透明感を払拭(ふっしょく)するにはまだ程遠い状況にある。
 普天間飛行場の代替新基地建設など、重大懸案に対する交渉は来年1月の就任後に先送りされた。
 トランプ氏は選挙戦で、在日米軍駐留経費の日本側負担増や在日米軍撤退の可能性に言及し、環太平洋連携協定(TPP)からの脱退を明言していた。反自由貿易を掲げ、労働者層の支持を幅広く得た同氏がTPP脱退を見直す可能性はほとんどない。まず、今国会でのTPP承認は見送るべきだ。
 世界の国々がトランプ氏の政権構想や主要人事を見極めつつ、対米関係を慎重に検討している。同氏は安倍首相との会談を通じ、聞く耳を持つイメージを醸し出し、世界に広がる警戒感を和らげた。外交得点を稼いだ格好である。
 対日関係で過激な発言を繰り返してきたトランプ氏に、これまでに築いた米国とのパイプが機能するか見通せない焦りが安倍首相のトランプ詣でを急がせた。米国に追従するイメージが際立ち、今後も足元を見透かされる恐れがある。
 翁長雄志知事は来年2月にも訪米し、トランプ氏らとの面談を求め、辺野古新基地断念を訴える考えだが、就任前にこそ、政権要職の布陣をにらみ沖縄の実情を理解させる戦略を練り、実践すべきだ。
 「日本の安保ただ乗り」論を訴えたトランプ氏は米軍駐留経費の負担増を求める可能性がある。日本側はそれを視野に入れ、沖縄社会の理解を得られない新基地建設の中止とセットで米側を説得する柔軟性を持つべきだ。
 過重負担にあえぐ沖縄の民意を曲解して伝え、安倍政権が、トランプ次期政権側から「辺野古が唯一」との見解を引き出す働き掛けを強めてはならない。