<社説>琉球人墓保存へ 歴史検証と交流の礎築こう


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 沖縄と中国の双方による琉球・沖縄史研究や、さまざまな交流を促進する上で意義深い決定だ。

 1879年の「琉球処分」(琉球併合)前後に北京で客死した琉球人が眠る埋葬地(琉球人墓)が保存されることになった。都市開発によって撤去対象になっていたが、開発を手掛ける民間財団が保存方針を決めた。北京市もその意向だ。
 沖縄と中国の交流史や、沖縄の近現代の歩みを決定付けた「琉球処分」を学ぶ上で、琉球人墓は不可欠な歴史遺産である。北京市ら関係者の判断を高く評価し、感謝したい。
 琉球人墓は北京市郊外の通州区にあり、首都機能の一部移転やテーマパーク建設に伴い取り壊す計画だった。沖縄と中国双方の研究者が県や北京市に琉球人墓の保存を求め、県も昨年5月、北京市長宛てに適切な保護措置を求める文書を送った。これらの取り組みが今回の決定につながった。
 現時点では保存・復元の在り方についての方策は決まっていない。今後の研究者間の議論を通じて具体的な方向性を見定めてほしい。県の積極的な関与も待たれる。
 そのためにも、琉球人墓の本格的調査が何よりも必要だ。中国に渡った進貢使や官生、「琉球処分」前後に中国に亡命し、琉球王国の救国を訴えた陳情使ら14人ほどが埋葬されたとされるが、未解明な部分も多い。復元作業の前段となる調査は、琉中関係史に新たな光を当てることにもなろう。
 今回の保存決定を機に「琉球処分」の歴史的検証が進むことも期待したい。北京で展開された琉球救国運動の歴史的事実が今日、県民に認知されているとは言い難い。主権国家であった琉球国の危機に際し、先人がどう行動したかを学ぶ意義は大きい。中国側でも研究の機運が高まっている。
 これらの研究活動は19世紀末から20世紀にかけての東アジア交流史、その中における琉球・沖縄の位置付けを明確にすることにもなるはずだ。
 今回の保存運動の過程で、沖縄の研究者が北京で開かれた学術会議に参加し、琉球人墓を墓参した。今後は研究者だけでなく、行政や民間などさまざまなレベルの交流促進も期待したい。
 先人が眠る琉球人墓の保存・復元は歴史に学び、アジア諸国との連携を通じて未来を展望する沖縄にとって大きな意味を持つ。まさに未来を築く礎となるはずだ。