<社説>軍事研究助成制度 科学者の決意を示す時だ


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 日本学術会議が「軍事研究を行わない」とする過去の声明の見直しを検討している。

 戦争協力への反省を踏まえた科学者の信念を確固たるものにしてほしい。声明を堅持し、軍事研究と決別する決意を新たにすることを求めたい。
 防衛省は2015年度に「安全保障技術研究推進制度」を創設した。この制度は大学や独立行政法人、民間企業の研究者からの提案を審査し、その評価に基づき年最大3千万円の研究費を助成するものだ。
 国は大学への補助金を削減し続け、東京大など一部の例外を除いて研究費のかさむ理系学部の多くが資金不足に悩んでいる。
 このため、工学系研究者を中心に防衛省の制度に応募する動きが出ている。15年度は109件の応募があり、9件が採択され、16年度は応募44件、採択10件だった。
 日本学術会議は1950年に「戦争を目的とする科学の研究には絶対に従わない」との声明を発表した。67年には「軍事目的のための科学研究を行わない声明」を出している。
 防衛省の制度は、軍事応用が見込まれる研究に資金を提供するものである。学術会議の二度の声明とは相いれない。
 学術会議の検討委員会中間報告は、防衛省制度への応募の是非については明言を避けた。一方で「研究の方向性や秘密性の保持を巡って、政府による介入が大きくなる懸念がある」などと問題点を列挙し、慎重姿勢を色濃く示した。
 防衛省からの研究予算が拡大することで「他の学術研究を財政的に圧迫し、ひいては基礎研究等の健全な発展を妨げるおそれがある」と、中間報告は指摘している。軍事研究優先によって学術の健全な発展が阻害されることに、学術会議が手を貸してはならない。
 国が言う「防衛装備品」とは兵器・武器、「安全保障」とは「軍事」のことである。研究成果は民生分野でも活用されるとするが、それは付け足しにすぎない。
 防衛省の研究費目当てに、70年近く堅持してきた「反軍事」声明の精神を弱めることがあってはならない。多くの科学者が声明に込められた決意を示す時だ。
 防衛省の軍事研究助成制度を廃止させ、米軍が実施している日本の大学などに所属する研究者への資金援助も拒否すべきである。