<社説>観光1200万人 数より質の高さ目指せ


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 歓迎したい数値目標だが一抹の不安が残る。

 県は2021年度までに入域観光客数の目標値を現行の1千万人から、クルーズ客を中心に20%増の1200万人に上方修正した。観光収入は10%増の1兆1千億円に修正した。
 観光収入の伸び率が観光客の伸びと比べて低い理由は、増加幅の大きいクルーズ客の滞在が数時間と短く、消費額が低いためだ。21年度の入域観光客全体に占めるクルーズ客の割合は、15年度の3倍の17%を占める。ところが観光収入に占める割合は5%にとどまる。数は増えても利幅の薄い「薄利多売」の状態といえる。
 このため入域観光客数の増加は手放しで喜べない。1人当たり消費を増やすには、観光客の満足度を高め、もう1泊したくなる施策が必要だ。数を求めるより、高付加価値の観光を目指すべきだ。
 今後の課題として、観光客の足となるバスやタクシーなどの2次交通の整備強化、宿泊施設の確保、個人旅行者向け民泊の強化、人材の育成など県全体で広範な取り組みが必要になる。
 国内客の目標を据え置いたにもかかわらず、県が入域観光客数を上方修正したのは、沖縄を取り巻くアジア太平洋地域の観光が成長しているからだ。
 国連世界観光機関によると、アジア太平洋地域の観光需要は15年の2億8千万人から30年は倍増の5億4千万人と予想している。日本航空機開発協会によると、35年のアジア太平洋地域の民間航空機の需要は、15年の2・5倍の1万5370機と予想される。15年のクルーズ市場は中国が12年の約4・6倍に拡大している。そこで県は、21年度の外国人客の目標を200万人から400万人に倍増した。特にクルーズ船による海路は、8倍の200万人に設定した。
 一方、21年度の観光客1人当たりの消費額は、現行の10万円から7%減の9万3千円と下方修正した。平均滞在日数は現行の5日から0・54日減の4・46日に設定している。
 全国的に訪日客の志向は「モノ(消費)」から「コト(体験型)」へシフトしている。この変化に敏感に対応したい。アジアからのクルーズ客だけに頼らず、消費拡大に直結する長期滞在が多い欧米やオーストラリア、アジアの富裕層を呼び込む工夫も必要だ。