<社説>いじめ調査非公表 根絶目指す法に背向けるな


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 何のため、誰のために専門的知見を有した人たちが調査を尽くすのか。本末転倒と言うしかない。

 公立学校で起きた重大ないじめを調査するため、全国の教育委員会が外部の識者などに委嘱して設けた第三者委員会による調査結果の4割以上が非公表になっていた。
 2015年度のいじめの「重大事案」は313件発生し、49件で第三者委員会が設けられた。調査継続中を除く38件のうち、13都府県の18件で調査結果が公表されていなかった。
 第三者委が設けられるのは、児童生徒の著しい人権侵害を伴う深刻ないじめ事案が多い。教育現場の事なかれ主義や隠蔽(いんぺい)体質を克服しなければ、真相が解明されないとの判断に基づく。
 文部科学省は「特別な事情がない限り、公表が原則」としている。
 外部の専門家や弁護士などに入ってもらうのはなぜか。責任追及を恐れるあまり、学校などが真相解明に及び腰になることを避け、検証することにある。それは、再発防止の大きな糧になるはずだ。
 公表されないなら、調査する意味が見いだせない。非公表の理由として「個人が特定される恐れ」を挙げる自治体がある一方、「公表を前提にしていない」という自治体さえあった。
 プライバシーを保護するための慎重な取り扱いは許容できても、過剰な配慮によって非公表に逃げ込んでは、なぜいじめが発生したのか、防げなかった要因は何か、再発防止に向け何を改善するのか-という核心が共有されない。
 公表することを前提に、調査結果の表現などに意を尽くすべきだ。
 11年に滋賀県大津市で起きた中学2年生男子の自殺など、深刻化したいじめに対処するため、13年にいじめ防止対策推進法が施行された。男子生徒の父親は「生きている子どもたちを助けるために、息子が命懸けで作った法律」と涙ながらに訴えた。
 防止法は被害者が心身に重い被害を受けたり、長期欠席を余儀なくされるケースを「重大事案」と位置付け、文科省は学校に報告を義務付けた。
 いじめ根絶を目指す法に背を向けてはならない。学校以外が調査を主として担うことは望ましい流れなのである。恣意(しい)的な非公表はいじめ防止に逆行する。大人が子どもを守る健全な社会を築くためにも、第三者委の調査結果の公表を促さないといけない。