<社説>国際貨物ハブ効果 20億人の市場を捉えよう


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 那覇空港を拠点とした全日本空輸(ANA)の国際貨物ハブ事業の効果が目に見えて表れている。

 沖縄地区税関の輸出統計によると、那覇空港から香港、シンガポールなどアジアを中心に輸出された魚介類は2016年に90・9トン、2億9398万円となり、数量、金額とも過去最高を記録した。
 国際貨物ハブ事業が本格稼働した10年と比べると、数量で約46倍、金額で約38倍と飛躍的に伸びている。
 アジアと国内の各都市を結ぶ国際貨物ハブ事業が効果を発揮した象徴的な事例だ。
 那覇空港は国内、アジアの主要都市に4時間圏内という地の利を生かした物流拠点として全国的に注目されている。北海道の生鮮物が翌日の午後には香港に届くなど、沖縄を拠点とした物流体制がアジアとの距離感を縮めている。
 国内の経済成長が低迷し、需要を外に求める状況の中、日本産を旗印に海外へ売り込もうという動きは各地で相次ぐ。
 三重県や熊本県、愛媛県などが沖縄の国際貨物ハブ事業に注目し、助成金を出すなど輸出事業を後押ししている。鹿児島銀行の沖縄進出も、目的の一つは物流ハブを活用してアジア展開する九州の企業を支援することだ。
 県内でも貿易公社設立の検討や、JAおきなわが輸出拡大プロジェクトを発足させるなどの動きがある。中継拠点としての発展も大事だが、国内外の物産を仲介するだけでなく、県内の生産にも力を入れる必要がある。魚介類も輸出の6割が県外で仕入れたものであり、県産魚を輸出する態勢が整えば地元の産業振興にもつながる。
 アジアで日本産が受け入れられるのは生産物の信頼性ゆえだ。安心、安全、高品質といった日本のブランド力発信を、沖縄の貨物ハブが地理的優位性で支えている。
 例えば三鷹光器(東京)は医療機器の製造拠点を県内に設け、中国・アジア市場展開を計画する。米航空宇宙局(NASA)に採用されるなど世界有数の技術を持つ同社の沖縄進出も、国際貨物ハブの活用を見据えてのことだ。
 中国14億人、東南アジア諸国連合(ASEAN)6億人、計20億人の市場が空の向こうに広がる。農水産物以外に工業製品も海外に輸出する時代が近づく。沖縄の経済自立へ、物流拠点だけでなく生産拠点としての飛躍も期待したい。