<社説>嘉手納爆音訴訟判決 夜間飛行容認許されぬ 差し止めぬなら基地撤去を


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 米軍機の飛行差し止めを回避する判決がまたも繰り返された。米軍基地運用に司法は口を挟めないという思考停止を脱しない限り、基地被害は永久に救済されない。

 第3次嘉手納爆音訴訟の那覇地裁沖縄支部判決は米軍機の夜間・早朝の飛行差し止めを認めず、将来分の損害賠償も退けた。
 第2次訴訟で退けられた読谷村座喜味以北の原告への賠償が認められたことを「前進」とする声も原告団にある。しかし安眠を妨げる夜間・早朝の飛行差し止めに踏み込まない限り、爆音被害の抜本的な改善にはほど遠い。米軍基地の自由使用を容認する国策追従の判決と言わざるを得ない。

100デシベルの睡眠妨害

 最大の被害は米軍機の夜間飛行の爆音だ。最近でも昨年10月19日の午前2時半にF16機6機が離陸し最大100・2デシベルを計測した。住民が熟睡する深夜に「電車が通るガード下」に相当する爆音が基地周辺住民の安眠を奪う「殺人的な爆音」が日常化している。
 第2次訴訟の控訴審判決は「飛行差し止めの司法救済が閉ざされている以上、国は騒音改善の政治的な責務を負う」と国の騒音改善の責任を指摘した。
 しかし夜間飛行の横行は何ら改まっていない。今回の判決も「午後10時から午前6時の飛行制限が十分に履行されず、違法な被害が漫然と放置されている」と国の怠慢を厳しく批判している。
 であれば飛行差し止めに踏み込むべきではなかったか。国の無作為で夜間飛行が放置され、その実態を知りつつ、地裁判決は飛行差し止めを回避した。被害救済を放棄する国と司法の無作為、無責任の連鎖と言うしかない。
 厚木基地訴訟の2014年5月の横浜地裁判決は初めて自衛隊機の夜間飛行差し止めを命じ、15年7月の東京高裁判決は将来分の賠償をも認める初判断を下した。
 しかし昨年12月の最高裁判決は自衛隊機の飛行差し止め、将来の賠償のいずれも退けた。それを受け那覇地裁も将来の賠償を退けた。住民保護に傾きかけた東京高裁判決から後退する司法の反動に那覇地裁も追従した。
 米軍機の飛行差し止めを回避する裁判所の論理は「国は米軍機運航を制限できない」とする「第三者行為論」と、その背後にある「高度の政治性を有する安保条約は司法判断になじまない」とする統治行為論である。
 統治行為論は米軍駐留を違憲とする一審を破棄した1959年の「砂川事件」最高裁判決が源流だ。しかし同判決は近年、当時の最高裁長官が日米両政府の圧力を受けていたことが米公文書で判明している。

主権と司法の独立否定

 終戦後の米国の影響下で日本の司法が歪(ゆが)められたのである。「国は米軍に口出しできない」「司法は高度の政治問題を判断できない」との論理は日本の主権と司法の独立の否定にほかならない。
 米軍が夜間飛行を続け国がこれを漫然と放置し、司法も救済しないのなら、爆音の発生源の基地撤去を求めるしか手だてはないのではないか。
 沖縄国際大学の友知政樹教授は、嘉手納基地返還後の跡地利用の「直接経済効果」を年間1兆4600億円と試算する。
 嘉手納基地は沖縄戦時に日本軍が飛行場を建設し、占領米軍が基地として接収した。故郷を奪われた住民は周辺に移り住み、今なお爆音禍に苦しみ爆音訴訟の原告に名を連ねている。基地撤去の要求を不当とは決して言えない。
 嘉手納基地の爆音被害を放置する政府と司法に対しては、基地撤去要求をも辞さない強い決意で爆音解消を訴え続けねばならない。
 全国の米軍基地、自衛隊基地の騒音訴訟原告団との連携も重要だ。政府の無作為を突き動かし、司法の「第三者行為論」を突き破る理論武装が必要だ。将来の基地撤去をも視野に置く、たゆまぬ裁判闘争を原告団に期待したい。