<社説>共謀罪法案 市民社会の監視許されない


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 市民生活に重大な制約をもたらし、監視社会を招きかねない法律は必要ない。

 共謀罪とほぼ同じ趣旨の「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案について、日弁連が「通常の市民団体が処罰の対象になる恐れがある」として、反対する意見書を提出した。
 政府は法律の適用対象を「組織的犯罪集団」とし、具体的・現実的な「合意」と「準備行為」の実行を要件とすることで範囲を限定すると主張している。
 しかし、日弁連は「組織的犯罪集団」には、犯罪の「常習性」や「反復継続性」の要件がなく「テロ組織や暴力団などに限定されていない」と指摘している。
 このため「もともと適法な活動を目的とする市民団体や労働組合が違法行為を計画した時点で、組織的犯罪集団になったと解釈できる余地を残している」と懸念している。
 例えば、新基地建設に反対する市民団体が工事車両を止めようと座り込みを決めた場合、捜査機関の裁量で組織的威力業務妨害が目的の組織的犯罪集団と判断される可能性があるということだろう。
 治安維持法の下で言論や思想が弾圧された戦前、戦中の反省を踏まえ、日本の刑法は実際に起きた犯罪行為を罰する原則がある。
 しかし、共謀罪法案は実行行為がなくても犯罪を行う合意が成立するだけで処罰する。人が集まって話しているだけで容疑者とされてしまう可能性がある。これでは現行の法体系を根底から崩してしまう。「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」とした憲法19条にも反する。
 さらに「準備行為」に範囲を限定したと説明するが、条文で「資金または物品の手配、関係場所の下見その他」と規定する方針を固めたという。「その他」の文言が盛り込まれることで拡大解釈が広がる。準備行為かどうかは捜査機関の判断に委ねられ、歯止めとならなくなる。
 共謀罪の捜査のため、捜査で電話やメールを傍受できる対象犯罪の拡大や、犯罪拠点に傍受装置を設置する「会話傍受」まで認めかねない。
 主要な暴力犯罪について未遂以前の予備、陰謀、準備段階の行為を処罰の対象とする立法は既に存在する。テロを名目とする今回の法案を提出する必要はない。