<社説>2・28事件補償 台湾政府は人権配慮対応を


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 残留県人が巻き込まれた台湾の「2・28事件」から70年。県人の遺族は今も被害補償や遺骨のDNA鑑定で肉親であることを確認するよう訴え続けている。

 台湾政府は遺族の声に真摯(しんし)に向き合い、県人被害の全容解明と遺族への補償、遺骨のDNA鑑定による確認に取り組んでもらいたい。
 「2・28事件」では日本の敗戦で中国統治を回復した台湾で、国民党政府の弾圧により多数の台湾住民が殺害され、県出身者も被害に遭った。
 遺族や県関係団体の調査に台湾政府も協力し、これまでに県出身者4人の犠牲が確認された。その1人、青山恵先さん=当時(39)=は昨年2月に台北高等行政法院(裁判所)が台湾政府に日本円で約2千万円の賠償を命じ、台湾政府が上訴をせず賠償が確定した。
 残る3人の遺族に対しても台湾政府は賠償に応じてもらいたい。
 事件には台湾在住の多くの県人が遭遇した。県人犠牲者は4人にとどまらない可能性がある。
 台湾の民進党・蔡英文政権は国民党の前政権よりも、事件の真相究明や加害責任の追及に積極的だ。真相究明を図る中で、県出身者の被害の実相も解明してほしい。
 一方、中国政府が「台湾独立派は歴史を歪曲(わいきょく)して対立をあおり、(事件を)利用している」と台湾政府をけん制し、事件の解明に消極的な姿勢なのは残念だ。
 事件は台湾在住の本省人と中国大陸から渡った外省人の対立の原点とされるが、対立を乗り越えるためにも台湾、中国両政府が協力し真相解明に取り組んでほしい。
 台湾政府は当初、県人の損害賠償を拒んでいた。「日本兵の台湾人や台湾人元慰安婦に対する日本政府の補償が不十分」であることがその理由とされた。
 しかし台北高等行政法院は、台湾が批准する国際人権規約に基づき「人権に国境はない」とする趣旨の判断で県人への賠償を認め、台湾政府も従ったのである。
 台湾政府の対応を改めて高く評価したい。
 賠償請求は年内に期限を迎える。台湾政府には期限延長を含め、誠実な対応を求めたい。
 日本人の犠牲者は20人に上ると見られている。その被害補償問題には、台湾人元慰安婦などへの日本政府の補償問題が密接に絡む。戦時下のアジアにおける慰安婦、強制連行問題などへの日本政府の誠実な対応も問われている。