<社説>南スーダン撤収 遅きに失した責任を問う


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 政府が南スーダンに派遣している陸上自衛隊の国連平和維持活動(PKO)部隊を5月末に撤収させる方針を決めた。撤収判断は遅きに失したと言わざるを得ない。

 部隊が活動する南スーダンの首都ジュバでは昨年7月、大統領派と反政府勢力による大規模な戦闘が発生し、270人が死亡した。PKO参加5原則の一つ「紛争当事者の間で停戦合意が成立していること」という条件が崩れていたはずだ。この時点で撤収すべきだった。
 現地は昨年7月の戦闘以降、政権や政府軍の多数を占める最大民族ディンカが少数民族を迫害していると批判されている。国連高官も「民族浄化」の危険性を訴えている。さらに少数民族出身の軍高官が2月に辞任を表明し、その後に新たな反政府勢力の設立を宣言している。民族対立による混乱は一層深まっている。それなのに政府は昨年11月、現地部隊に武器を使って国連職員らを助ける駆け付け警護の新任務付与を閣議決定し、12月から運用を開始した。
 そのころ政府は首都ジュバの治安情勢について「比較的落ち着いている」と説明していた。稲田朋美防衛相は昨年10月の参院予算委員会でも7月の戦闘を「戦闘行為ではなかった」と否定した。首都で政府と反政府の戦闘部隊が交戦し、多くの犠牲者を出した状態を戦闘行為と呼ばずして、何を戦闘行為というのか。
 昨年12月、廃棄したと説明していた部隊作成の日報が見つかり、今年2月に公表された。7月の戦闘について「戦闘」や「攻撃」などの言葉で急速に悪化した現地状況が記されていた。この段になっても稲田防衛相は「日報には『戦闘』とあったが、法的な意味での『戦闘行為』はなかった」などという不可解な答弁を繰り返した。
 なぜ「戦闘行為」を認めないのか。その理由を稲田防衛相が自らの口で素直に答えている。
 「(戦闘行為が)行われたとすれば9条の問題になるので、武力衝突という言葉を使っている」
 憲法9条は国際紛争を解決する手段としての武力行使を禁じている。戦闘行為ならば部隊が巻き込まれる可能性があり、9条が禁じる武力行使につながるからだ。政府の説明は破綻している。憲法9条に違反する可能性を放置したまま、部隊を現地に置き続けた責任を問わねばならない。